1.

「古屋。久し振り?」

雄英高校に進学して数日。
中学では"あの雄英に"と好奇の目に晒されていたが、しょせんは普通科で。
"ああ、だよね"そうして皆がそう口をそろえた。
そうだよ普通科だよ、内心そう吐き捨てて。
だとしても、人間関係が一新され、現時点ではまだ快適な学校生活を送ろうとしていた。
していたのに、それとはまた違った意味で出会いたいくなかった人物と遭遇したのだ。

「なんだ、やっぱ答えないか」

残念そうに言う心操に、そりゃそうだと心の声で答える。

「あんたは案外ヒーロー科にも進めそうな気がしたんだけど、やっぱ無理だったんだ」
(無理に決まってるじゃん)
「たしか機械には使えないんだっけ?」
(人にしか使えないし、使ったらアンチヒーロー扱いだし)
「俺と同じでヴィラン扱いだもんなぁ」

不幸にも帰り道が同じであるがゆえ、駅まで隣を歩かれ延々と話しかけられる。
私は、特別彼が嫌いというわけではなかった。
だけど、個性が個性だ。
彼の問いに答えて、気付いたら変なことになっていた、なんてごめんだ。

「…そろそろ答えてくれてもいいんじゃない?」

急に足を止めたのに振り向けば、さきほどのヘラヘラした顔ではなく、不機嫌そうな顔の心操がいる。
生憎、私は相手が個性を使っているか分かるだとか、使えないようにするなんて個性はもっていない。
心理戦。
そんな感じか。

「心操もヒーロー科目指してたなんて思わなかった」
「いまもだよ」
「は?」

訳がわからずそう返せば、少し口角を上げる。
派手でなくおまけに物理攻撃のできない個性にとって、あの入試は不利だった。
私たちには手の出しようがなかったのに。

「知らないの? 体育祭のリザルト次第ではオレたちでもヒーロー科に入れるんだ」

初耳だった。
過去の雄英体育祭は、テレビで何度も見てきた。
学科なんて関係なく行われる競技。
それでも現実は厳しくて、スポットが当てられる上位者たちはヒーロー科で、彼らはとても輝いていた。

「心操は、本気でヒーローになりたいんだ」
「ああ」
「…そう」
「あんたはなりたくないの?」
「私がなれると思うの?」

反射だった。
つい語尾が強くなるのに、心操は驚いたように目を瞬かせる。
それがさらに頭に来て、駆け足でその場を去った。

ヴィランのくせにヒーローなんかなれるはずがない、雄英高校を志望した私を、周りはそう見下した。
実際、個性を人に使うことがどれほど危険で、ましてや個性を使うこと自体が危険な私が、ヒーローになれるはずがない。
心操だってそれを知っているはずなのに。
腹の底が煮え立つような気分に、力強く目を閉じた。

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