15.

「先生、テレビなんて持ってきてどうしたんですか」

語尾のイントネーションが疑問形にならなかったのは、おおよその見当がついていたからだった。
どこに言っても耳にするのは「そろそろ雄英の体育祭ね」。
この時期を逃せば、復帰は難しくなるかもしれない――そう分かってはいるつもりだったけれど。

「きみも同級生たちの活躍を見て置いたほうがいいと思って」

せっかくテレビ放送されているのだから
そんな調子で続けるのに、胸の辺りにもやのようなものが詰まる。
どうせ私たち普通科の生徒の活躍は、ヒーロー科の生徒たちに潰されてしまう。
そのスポットが当たるのは、僅差で編入できなかったか、あの試験では個性を十分に発揮できなかったごく一部の生徒だけなのだ。
だから同級生の活躍がみれるのはレースのごく序盤か、個性が関係しないような平等な競技ぐらいだろう。

「私、オリンピックみたいなのってあまり深く入り込めないんですけど」
「まあ、僕に付き合うと思って」

先生、仕事はいいんですか
そう思って、聞こえないように小さく呟いたつもりだった。

「今日は君しか入ってないし、急患だって滅多にこないからね」

生放送で見たかったんだよこれ、最後にそう付け加えられる。
良いように使われているような気がしてならず、あからさまに表情に出しながら画面を睨んだ。


目当てはどうせA組だろ!?
そんな直球の実況をするマイクと、隣にいるミイラマン。
たぶん相澤先生かなあと、遠巻きに見た寝袋の彼を思いだす。
彼がプロヒーローだという噂は聞いている。
事実、A組の担任を任されているのだからそうなのだろう。
彼の発言やそのナリからは、あまり想像はできないけれど。
マイクの方は、メディアの露出が多いから"ヒーロー"というよりも"芸能人"に似た感覚で知っていた。
画面には映っていなくても、声だけでまるでインコのような姿をしている彼の姿がありありと浮かぶ。

が、"教鞭を執っている"とはいえ所詮は花形の"ヒーロー科"での話だ。
同じ学校でも、彼らの授業に参加できる他学科は限られている。

「ねえ、マイクとは会ったことあるの?」
「遠巻きに見たことなら」
「じゃあ、オールマイトは…」
「ないです。合格通知で、ドンマイみたいな短いコメントがコピーで届いたぐらいで…」

やっぱり"雄英高校"も、花形とそれ以外とでは対応に差が出るに決まっている。
ヒーロー科に知り合いがいるというクラスメイトによれば、彼らにはオールマイト直々のコメント映像が送られてきたらしい。
オールマイト直々なんて羨ましいなーとか、所詮俺たちはーとか、教室は羨望と嫉妬で混沌としていた。

画面の中で、わあ、と会場が熱くなった。
巷で噂の"1-A"のお出ましである。
目が回復する前、ニュースで雄英にヴィランたちが攻め入っていたことを聞いた。
オールマイトの尻尾を掴もうと躍起になっていたメディアに紛れ、学校の機密が漏れてしまったらしい。
死者がでなかった上に、応援が駆け付けるまで彼らがヴィランと闘い持ちこたえたというのだから、そりゃ注目は浴びる。

それによく分からないわだかまりを抱きながら、マイクの実況に耳を傾けた。
ヒーロー科に続き、普通科のクラスが入場してくる。
その中に小さく心操の姿が見え、視線を背けた。

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