13.

私が失明していたのは1日だけで、昏睡状態に陥っていた分を除けばほんの数時間だったらしい。

「まあ、原因はよく分かったよ」

また"治療"のために精神科の先生がきて、もう心操との一件は伝わっていたのかそんなことを言われる。
部屋は、病室独特の大きな窓から光が差し込んできていて、照明を点けていなくても充分なくらいに明るい。
先生との会話の中、私がもう暴れないと分かったのか拘束具はすでに取られていた。
腕を見ると、暴れた時にできたのだろう、くっきりと赤黒い痣ができている。

「目、どんな感じでしたか?」
「だいぶ回復してたよ。なにか心境の変化でもあったの?」

プロではないから精密さには欠けるけれど、と言われてされた軽い検査。
心境の変化と言われても、今は重くどんよりとしたものが胸に残っているだけだ。
私が誘拐された原因が心操にあって、あの事件が尾を引いていたのは私の家だけでなかったこと。
変わったことといえば、それが分かったぐらいだ。

「先生は、怖くないんですか? 私の個性」
「ボクの個性は"ステルス"だから」

ステルス――軍事機で使われている、センサーに感知されにくくする技術だ。
私の視線にまったく意を介さない先生に、どうりでと思った。
それが個性の力を跳ねのけるのか、それとも彼の身体が目にすら映らなくなるのかは分からない。
どちらにせよ、彼は私に打ってつけの個性だった。
こういう個性の人にもっと早く出会ってたら、まだ良かったのかなぁ
考えても仕方のない"もしも"に、ため息が漏れてしまう。

「心操人使くん」

ふいに出てきた名前に、一瞬めまいがする。

「彼のこと、どう思ってるの?」
「どうって…」
「憎い?」

直接的な言葉に、思わず目を強く瞑った。
心操を好ましく思っていないのは今も変っていない。
むしろ彼のことなんて早く忘れてしまいたいとすら思える。
でも、腹の底でもぞりと動くなにかが、それとは違った感情のようなものを吐き出すのだ。

「…正直、分からないです。会いたくないのには変わりないけど…」
「そうか」

それから二言三言、言葉を交わしたあと、先生は次の患者がいるとまた病室を去っていく。

「そうそう。今朝方、お父さんから"本宅に戻る"って連絡がきたよ」

去り際、先生は思い出したようにそう言った。
それに思わずギョッとして顔を向ければ、もうそこに先生はいなかった。

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「見えない臓器の名前は」
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