8.

まだ小さかった頃、かっちゃんとよく喧嘩をしては泣いていた。
自分はすごいんだと胸を張る彼に、素直にそう思う自分と、なにか違うと思っていた自分にも。
それがよく整理できなかった私はただ反発して、殴られそうになっては出久が間に入ってくるというのが当時のテンプレだった。
かっちゃんも本気で暴力を振るおうとしていたわけではなかったのだと思う。
本気だったらとっくに出久と私のどちらか(もしくは両方)が、どこかしら身体を壊しているはずだから。
だから、本当はかっちゃんだって頭はいいし賢いのだ。
だけどそうじゃない部分があると本能的に感じとっていた私はかっちゃんとよく衝突した。

かっちゃんの話題を両親に振ると、ああそういえば、と思い出したように語ってくれた。
幼稚園から小学校にかけて仲が良かったコト、だけど高学年になり始めてからは疎遠になっていたコト。
思春期だし年頃だろうからと気にしていなかったと言う両親に、それがどうしたのかと尋ねられて曖昧にはぐらかした。
物心がつくころから仲が良かったのに、そのことすら忘れていたことに酷く動揺していた。
幼い頃の記憶や彼といるとやけに動悸が激しくなった原因が分かってすっきりするよりも、その方がずっと強い。
ぐるぐると頭の中が回転しているような感覚に、頭痛や吐き気を覚える。


「ふざけんじゃねえぞ」

かっちゃん、そう口に出した私に彼はそう言い捨てた。
私の記憶違いでなければ、かっちゃんと出久と私の三人は幼馴染で、よく行動をともにしていた。
今の今まですっかり忘れていたことが信じられないぐらいに。
どうして出久のことは覚えていて、彼のことを忘れていたのか、そんなのどうでもいいぐらいに嬉しかった。
でも、かっちゃんは違った。
出久に当たっていた時の顔とは違う、怒りに近い顔をして、肩を震わせている。

「ふざけんな」

酷く歪んだままの顔でそう吐き捨てるかっちゃんが、怖かった。
こんなかっちゃん知らない。
私の知ってるかっちゃんじゃない。
私の知っているかっちゃんと、彼を忘れてしまった私の見てきたかっちゃんは、全然違う。
それが悔しくて、虚しくて、悲しくて、胸が苦しかった。


気付けば爆豪はいなくなっていて、茫然としていればあとからやって来た出久と鉢合わせした。
一体どうしたのかと尋ねられたけど、なんでもないと言ってすぐにそこを去って。
考えがまとまらなくて、今のまま教室に戻るのも嫌で、屋上への踊場で蹲っていたときだった。

「あぁ、なんだ。三善か」

もう鐘が鳴ってずいぶん経った後だった。
踊場に、男子の声が大きく響いた。
まさか誰かが――それも生徒が来るなんて思わなくて、心底ビックリして顔を跳ねあげた。

「保健室に居ると思ってたんだけど、違ったんだ」
「心操……」

ジト目に隈のある、一見近寄りがたかった同じクラスの男子。
実際、友人以外とはまだ深く交流している人もいなかったし、意識的に彼と親しくなろうと考えたこともなかったけれど。
彼のことはよく知らないけれど、一ヶ月近く同じ教室にいて感じたのは私と同類というところだ。
ヒーロー科に対しては、友人と同じスタンスらしいと彼女から聞いている。

「三善も意外な所あるな。サボり?」

違う、そう答えようとした瞬間、急に目の奥がジンジンと熱くなってきて、唇や肩が震えてしまう。
抑えなきゃ、そう強く思っても余計に震えるだけで、唇を結んでしまえば何かがフツンと切れたような気がした。

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