5.

下駄箱にはまだ人がいて、にぎやかという程ではないけどざわついている。
部活の勧誘なんかもまだしている人がいて、それを断りながら校門に向かった。

「あ…」
「あれ、あんたの幼馴染じゃん」

そこにはまだ出久がいて、爆豪勝己も一緒だった。
私と出久が幼馴染なように、彼と出久も幼馴染の関係だ。
2人は中学も同じだったはずだし、腐れ縁で付き合いがあってもおかしくない。
ふと、出久があの爆豪を「かっちゃん」と呼んだのを思いだす。
「かっちゃん」という愛称で呼ぶほど、出久は彼に対して親しみを抱いてる。
それが、私にはもやもやとした感情しか湧かなかった。

と、突然、爆豪が出久の胸ぐらを掴んだ。
どうやら言い争っていたようで、それが過熱しているらしく、ギョッとする。
止めなきゃ――そう思ったのに、身体は固まったままだった。

「ちょっとあんた! なにやってんのよ!」

まるで代弁してくれるかのように、その様子に驚いたらしい友人が爆豪に飛び掛かった。
爆豪もそれには驚いたようで、目を瞠りつつも「るっせえ!」と怒声を上げる。
私がようやく駆け寄ればこちらをジロリと睨んで、乱暴に出久を突き放して去っていってしまう。

「出久、大丈夫?」
「う、うん、大丈夫だよ…」
「嘘吐くなっつーの」

なんでもすぐに噛みつく友人の性格に、今回ばかりは感謝した。
出久は掴まれたり突き放されたりと崩れてしまったYシャツの胸元を直している。
幸い怪我はしていないようだ。

「あれ、爆豪勝己でしょ」
「えっ知ってるの?」
「試験が同じ会場だったからね。まさか、あいつも幼馴染?」

信じらんない、というような顔をされて咄嗟に「そういうんじゃなくて」と弁解する。
知っているのは名前と噂だけで、親しいどころか会話だってまともにしたことがない
そう言ってもハイハイそーですかとあしらわれてしまう。

「えっと、かっちゃ…爆豪くんと仲が良かったのは僕だけなんだ。マコちゃんは関係ない」

不意に出久がそう入り込んでくるのに、友人は少し驚いた表情をした。
それに「ふぅん」と不満気に応答して、目が座ってしまう。
納得していないのはその目をみれば一目瞭然だけれど、少しホッとする。

もう一度「大丈夫?」と尋ねようと出久を振り返った。
だけど、大丈夫、という言葉は出てこなかった。
友人の目をジッと見ながら言う出久の顔をみて、何かが引っかかったのだ。
頭に霞がかかるような、胸のあたりをモヤモヤと何かが詰まっているような。
なにか大切なことを忘れてしまっている気がする。

「…出久、本当に怪我してない?」
「えっ? う、うん大丈夫だって!」

ようやく出た言葉に、出久は「本当に平気だよ」と笑顔で答える
それでも、私の表情が変なのか、逆に私が大丈夫なのかと聞かれてしまう。

「あんたも知ってるとおもうけどこいつ結構メンタル弱いからさ。いつものことだから平気っしょ」
「ホントにそう思ってるならいじるのやめて」

そう言い返せばフンと鼻を鳴らしてそっぽを向かれる。
それに出久と一緒に苦笑いすると、二人して笑わないでよと怒られた。

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