4.

周囲に流されない自分になりたい、人はみんなそう言う。
けれど、一切周りに流されず振り回されない人間なんて、そういない。
そして自分は、まさに振り回されてばかりの人間だなと思った。
担任に「すこし話があるから来い」と深刻そうな顔で言われたから、放課後、わざわざ職員室に足を運んだ。
そうして「そういえば学級委員を決めるのを忘れていたから資料運びを手伝ってくれ」と、飄々とした顔で言われたのだ。
顔にでていたのか「ヒーロー科に行きたがってる様子でもないし、どうせ暇だろ」と言われてしまった。
たしかに放課後は特に用事があるわけでもなかったし、友人と帰る約束をしていたわけでもなかった。
その言葉がすごく癪に障ったのに、私はそれを断ることができなかった。

出久と帰るということにすればよかったかもしれない。
でも、前に私の知らない友達と帰っているのを見かけてから、"幼馴染"という関係を理由にベタベタするのがなんだか嫌になった。
友人は友人で、稽古だなんだと意気込んで私が気付く頃にはもういなくなっている。
ため息を吐いて天井を仰いだ拍子、背後から声がかかった。

「おい、プリント落ちてっぞ」
「えっ、あ、ありがとう」

おまけに肩まで掴まれるもんだから、驚きながら振り向いた。
振り向いて、また更に驚いた。
見たことのある顔だったからだ。
小学校で乱暴者と有名だった爆豪勝己、出久がよく一緒にいた男の子。
派手な個性を持っててよく「ヒーローになる」と豪語していた記憶がある。

「え、」
「てめぇ…」

この人も雄英に来ていたのか、と驚きのあまり固まっていれば、向こうも気づいたようであっという間に不機嫌そうな顔になった。
それにハッとして、彼の手にあったプリントを急いで受け取る(もぎ取ったの方が正しいかもしれない)。
彼が雄英にいるとしたら、ヒーロー科だろうか。
普通科に彼がいた記憶はないし、サポート科や経営科にいるとも考えられなかった。
出久の言っていた親しい人とは彼なのかもしれない。
だとしたら、出久は大丈夫なんだろうかと心配になる。
小学校時代に見ていた彼の素行や言動を考えれば、出久の言う"親しい"が純粋なそれとは考えにくかったから。

振り返りざまにちらりと見た顔はさらに歪んでいて、これ以上接していたら危ないと感じた。
彼は感情の起伏が激しいというか、それでも落ち着いているときですら普通に人に個性を使おうとした。
そんな彼を見ていてあまり良い印象を持たなかったせいだろうか。

「かっちゃん!」

そうしていざ去ろうとした時、反対側からそう叫ぶ声がした。
聞き覚えのある声に振り向けばやっぱり出久で、目が合うとなぜかすごく驚いた顔をする。
私と爆豪の顔を交互に見ながら「えっ、あっ、マコちゃん…?」とどもるのに、少しの違和感を覚えた。

「えっと…私、プリント教室に持ってかなきゃいけないから」

じゃあね、と早口に言ってその場を走り去る。
ふと額に触れてみれば汗が出ていて、動悸も激しくなっているのにも気が付いた。
なぜそうなるのか分からないけれど、これを"嫌な汗を掻いた"というのだろうか。
教室に戻ると、なんと私を待ってくれていたらしい友人がいた。

「大丈夫? 顔色悪いけど」
「ううん、平気」

心臓は未だに早鐘を打っていて、何よりプリントを置く手が震えていた。
それを見た友人は「ホントかよ」と不服そうに呟く。

「あーあ、愚痴聞いてもらおうと思ったのに」
「…ごめん」

大袈裟に溜息を吐きながら言う友人は、素直に謝ると「やめてよ」と笑った。

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