1.

「もしヒーローになれたら、どんなヒーローになりたい?」

昔、小学校で友達とそんな話をした。
相手はだれだったか良く覚えていない。
けれど、とても親しかったはずだ。

二人は揃って「オールマイトみたいになりたい!」と言った。
私はそれがおかしくて、笑ってしまった。
二人とも正反対なのに、目標は同じなのだ。
一人は私が笑ったことに怒って、もう一人はやめなよと彼を止める。
そして私にもやめてよ、と恥ずかしそうに言った。

その二人のことなんて、もうほとんど覚えていなかった。
なのにその記憶だけがはっきりと頭に残っている。
どうしてだろう、と自問自答した。
そんな必要はないと、分かっているはずなのに。


「今日はめずらしく食欲ないね。風邪?」
「ううん、そういうんじゃないの」

なんとなく食べる気分でなくて、いつもは定食一人前のところを半カレーだけにした。
それが可笑しいのか、一緒にいた友人は「好きな男子でもできたの?」と囃し立てる。

「だとしたらカレーなんて食べないよ」
「じゃあなに? 小テストの点でも悪かった?」
「それも違う」

私と彼女は、ヒーロー科を志望したはいいけれど不合格で普通科に通うことになった人間。
かといってヒーロー科に在籍するチャンスが全くのゼロになったわけでもなかった。
そんな境遇にいるのは私たちだけじゃない。
どのクラスにも、そういう人たちがいると知ったのはついさっき。
数週間後にせまっている体育祭で好成績を残せば、下剋上だって可能だと担任にけしかけられたのだ。

「下剋上してみればって、先生に言われた」
「ふぅん。マコたちはそっち組だもんね」
「拗ねないでよ」

個性は十人十色、ヒーロー向きの個性もあれば、不向きなものもある。
友人は残念ながら後者で、前者である私とは些か相容れないところがあった。
どうしてもヒーローになりたかったという友人と、どちらかと言えばフツーの人生を歩めればいい私。
良い個性のくせに生意気なことを、と喧嘩を彼女から売られたのがまだ昨日のことのようだった。

「ねえ、あんたの後ろにヒーロー科がいるんだけどさ」

急に声を潜めて言う友人に、思わず振り返りそうになる。
なんとかそれを堪えて、気配と声だけをさぐった。
個性がどうの、オールマイトがどうのという会話をしている。

「ちょっとけしかけてみれば」
「やだよ」

つまらないやつめ、と悪態を吐かれるけれど、むやみにけしかけた所で彼らの目にはただの"嫌な奴"にしか映らないだろう。
先日、襲撃してきたヴィランのように、ある程度の算段が整っていなければ返り討ちに合うだけだ。
それを言えば「あんたってホント嫌なヤツ」と罵られて、それで私と一緒にいるのはなんなのよ、と思う。


「ねえ君たち普通科?」
「なにあんた」

後ろから声をかけられて、振り向いた友人は開口一番そんなことを言う。
なんてこと言うんだ、と言おうとして、その人を見て固まってしまった。
(厳密にはその人たちで、私たちに声をかけたのは一人の男の子だ)
後ろにいる彼のグループから「やめなよ見苦しい」とブーイングをされていても、ヘラヘラとしている。

「おれ、カミナリデンキっていうんだ! ヒーロー科にいんだけど…」
「知ってる。普通科の私たちになんか用でも?」

喧嘩腰な口調で返す友人に、内心ヒヤリとした。
私に突っかかって来た時もこんな調子だった。
やめときなよ、と腕を取ろうとすれば、逆に私の腕を取られる。
それにぎょっとして、振り払う間もなく友人の隣に立たされた。

「体育祭であんたら蹴落としてやるから」
「は?」

カミナリと名乗った彼は驚いたような唖然としたような顔をして、友人と私の顔を見比べる。
その後ろでも彼の友人たちが驚いた表情をしていて、内心悲鳴をあげた。
別に私は、なにがなんでもヒーローになりたいわけでもヒーロー科に在籍したいわけでもないのに。
それに私の個性は彼らを蹴落とせるほど瞠るものではないのだ。

しかし、そんな心の叫びを露わにしたり友人の行動を咎めるよりも、もっと重要な事実に目を奪われていた。
カミナリデンキと名乗るヒーロー科の少年の後ろ、そのグループにいる一人の少年。

緑谷出久。
無個性だったはずの、小学生のとき友達だった男の子。
なんできみがそこにいるの
そんな疑問は引っ張る友人にかき消された。

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