梅雨ちゃんの話 1

放課後。
すっかりミイラ男の姿が定着してしまった相澤先生のホームルームが終わり、みんな思い思いのことを始めている。
ふと、すばやく帰り支度を終えて帰ろうとする爆豪ちゃんと、目が合った。

「爆豪ちゃん、ちょっと聞いてもいいかしら」
「あ?」
「普通科にいる、緑谷ちゃんと仲の良い子のことなのだけど」

あの子、なんていうの?
全て言い終える前に、ドアが派手に閉まる音が耳をつんざいた。
つんざかれたのは私だけじゃないみたいで、教室が一瞬にして静まり返る。
でも、爆豪ちゃんがプッツンしてるのはいつものこと。
教室はすぐに騒がしさを取り戻したけれど、空気はまだ少し凍ったままだった。

「梅雨ちゃん、大丈夫?」
「ケロ…」

緑谷ちゃんに聞いてみようと思えば、今度は緑谷ちゃんがオールマイトとの約束があるからと、逃げられてしまって。
しかたなく自分の席に戻った私に、最初に声を掛けてくれたのが上鳴ちゃん。
すぐに後ろから次郎ちゃんもやってきて、「爆豪とどうかしたの?」と心配してくれる。

「なんでもないのよ」

そんな風に答えれば、二人とも目を合わせる。
そう、なんでもないの。
ちょっとだけ、あの子のことが気になっただけ。



「あら、あなた…」

私も帰り支度をして教室を出れば、廊下であの子と会った。
なんて呼べばいいかな、と控えめに尋ねられるのに、いつもの言葉をかける。
慣れない様子で私の名前を口にする様子が、緑谷ちゃんと重なった。
私は三善マコ、マコでいいよ
ようやく名前を教えてもらったと喜んだのも束の間、正直に爆豪ちゃんの事を尋ねれば、すぐにその表情は固まった。
知ってるのね、じゃあ教えてちょうだい――そう口に出す前に、「なにも知らない」と口早に告げられて。
きっと、何を聞いても教えてはくれない。
きっと、爆豪ちゃんと、緑谷ちゃんと、マコちゃんと、その三人だけが共有してるもの。
あてが外れてしまった、なんてことを思いながら、その場を去った矢先、彼女にであった。

「あんた、あのぼさぼさと同じクラスだよね?」
「それは緑谷ちゃんのことかしら」
「たぶんそう。イズクとかいう、私の友達の、友達のぼさぼさ」

この数週間で、クラスメイトの性格や行動はだんだん分かるようになってきた。
爆豪ちゃんは自信過剰な先走り屋さん、それでいて幼馴染の緑谷ちゃんは規格外の個性や頭の回転とは裏腹に自信無さげで。
彼女は、たしか、あの子の友達だったはず。都合がいい。
ケロ、と喉を鳴らして「私もあなたに用があるの」と答えた。

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