11.

「かっちゃんのことなんだけど」

振り向いた出久は、すこし驚いた顔をする。
オールマイトとの話は終わった? と尋ねれば、さらに驚いた顔をしながら頷いた。

あのオールマイトがこの学校にいる。
そう聞いたときは信じられなかったし、夢かと思った。
もっと真剣にヒーロー科を検討していればよかったと後悔もした。
でもどうあがいたって過去は変えられないし、これから目指せばいいじゃないと友人に丸め込んでもらって。
出久がオールマイトと親しいということにも驚いたけれど、今の私は、それよりも出久と話したいことがあった。

かっちゃん――そう口にすれば、出久の表情が一瞬で固まった。

「え?」
「えっと、なにから説明すればいいのか分かんないんだけど…」

出久と私。出久とかっちゃん。
私はずっとそれだけの関係だと思い込んでいたし、出久もそうだとはっきり言った。
でも実際には違って、私たちは三人揃って幼馴染だったわけで。
その記憶を失っていた私はともかく、出久がそんなことを言ったのは、なにか理由があったはずだ。
出久は、理由もなく嘘を吐くはずがない。

「なんで、私とかっちゃんには何もないって嘘吐いたのか、教えてほしいの」
「え、えっと、それは…」

いつもよりずっと上擦った声で、どもった返事をする出久に、私は黙って待った。
目は泳いでいて様子もソワソワしていて、どう見ても怪しかった。
逃げられるかもしれない――
そう思って、カバンを掴もうとした時だった。

「なにやってんだ、てめえ」

その声に、その口調に、出久の表情が一瞬にして固まった。
声の方を見ると、いつも早く帰ってしまうと聞いていたかっちゃんの姿があった。
怒ったような歪んだ顔ではなく、なにを考えているのか分からない表情をしている。

かっちゃんの姿を見て、なにか冷たいモノが胸を落ちていった。
身体の中がすっからかんになったような、ぞわぞわとしたものが背中を這い回っている。
どうして今更、そんな感覚に襲われるのか、分からなかった。

こわい どうにかしなくちゃ

そう思って、出久に顔を戻せば、俯いて唇を噛んでいるのが見えた。
何かに耐えてるような、そんな顔だった。

「ねえ出久!」
「帰るぞ」

近付いてくるかっちゃんに思わず身構える。
出久に伸びて行ったと思った手が、私の方へくるのが見えた。

「えっ」
「おまえだよ」

彼の手が、首元に届くのを見てようやく身体が動いた。
やめて、そう叫んで振り払おうとした。
けれどかっちゃんの手はそのまま私の胸倉を掴んで、引き摺って行く。
あたりに人はいない。
出久を振り返っても、そこでずっと俯いているままだった。

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BLコンテスト・グランプリ作品
「見えない臓器の名前は」
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