彼女のタイプ

個性の出現が現代の近未来の話だったら…という設定。
あと管理人の主観が10割。

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「クリス・エヴァンス。アベンジャーズでキャプテン・アメリカ演じてた人」

お昼休み。
弁当を広げているA組の教室で、"好きな俳優、女優はだれ?"という話題になったことがきっかけだった。
ほとんどが邦人俳優を挙げていく中、名前ただ一人は外人俳優を上げ、若干数名のみが「あの人ね」と合点のいった様子を見せる。

「女優だとたくさんいるけど、俳優ではクリスぐらいかなあ」
「アベンジャーズって?」
「アイアンマンが出てるヤツ」
「名前しか知らんわ…」

ほらこの人、と名前が掲げたアイフォンのホーム画面には、その"クリス"らしき男性の画像が設定されている。
他にもあるよ、と彼女の画像フォルダが開かれれば、尋常ではない枚数が収容されている"クリエヴァフォルダ"なるものがあり、それを見た誰かが「おぉ…」と気圧された声を漏らした。
かつてまだ"個性"というものが存在していなかった時代、画面の中だけの存在であったヒーロー。
最初こそ有名どころのアイアンマン目当てだったはずが、シリーズを通していくうち彼に「惚れちゃった」らしい。
いまではもう亡き人物だが、当時の容姿を見る限りイケメンの部類に入る男性である。

「ていうか、正確には中の人というよりキャプテンが好きなんだけど…」
「名前ってこういう人好みなんだ」

すぐ隣で画像を見ていた耳朗が、意外、と言いたげに爆豪に目を向ける。
お弁当を広げている集団からは離れた席にいるものの、こちらの会話を意識しているのは明らかで、うるさいぐらいに足を揺らし机を鳴らしている。
(誰もそれに気づかないというかスルーしているのは、もはやそれが日常茶飯事だからだ)
幼馴染である2人は俗にいう恋人同士で、かたやすぐに爆発する人物、かたや穏やかな人物のデコボココンビでもあった。
名前が好きだと言っている"キャプテン・アメリカ"は、少なくとも爆豪とはかけ離れた人格を持ち合わせているらしい。

「漫画で"忠誠を誓ってるのは国ではなく正義です"ってお偉い人に対して宣言しちゃう辺りすごくイケメンだと思う」

それを皮切りに"あのシーンでは"、"こんなシーンでは"、"あのモブ羨ましい"と普段は見せない饒舌さを見せる。
そのどれを取っても爆豪とはぐんぐん距離を離し、もはやまったくの別人格の人物を好みだと言っている名前が不思議でならなくなる。

「なんか、飯田っぽいね。キャラが」
「ああ、たしかに」

たったいま初めて気が付いた、という風に名前が相槌を打った。
話を聞く限り、真面目キャラという点では近い物を感じるし、一時期だが髪型が少し似ていたり。
まるでそこに行きつくのを待っていたかのように、学食へ行っていたグループが教室の扉を開ける。

「噂をすれば」
「飯田ー、ちょっと」

不思議そうな顔を浮かべる飯田の顔の横に、名前はすかさずフォルダにあった一番近そうな画像を並べる。

「ねえ飯田くん、今後髪を染める予定はある?」
「なにを言ってるんだ君は。髪を染めるのは校則違反だぞ」
「金髪ならキャプテンにもっと近づく気がするの!」
「おい」

会話が噛みあわないのも若干興奮気味になっている名前が主な原因なのだが、そんな彼女に恐ろしく地を這うような声がかかる。
ピシリと若干の緊張が走るグループとは裏腹に、もはや慣れているのか名前は平然とした顔で振り向き「かっちゃん!」と答えた。

「てめえ、いい加減にしねえとぶっ放すぞ!」
「えっなんで?」
「てめえのソレぶっ壊されてぇのか!」
「口が汚いぞ爆豪くん!」
「うるせぇてめえも一緒にだよ!」
「ハァ?!」

表情をキョトンとさせたのも束の間、言っている意味を理解したのか己のアイフォンを隠しながら「やめて!」悲鳴を上げた。
が、間に入って来た飯田の背に隠れながら「痴話喧嘩は犬も食べないんだから!」「暴力反対!」「ひどい!」と捨て台詞を吐き、火に油を注ぐ始末。
しばらく言い合いが繰り広げられた後、5限を報せる鐘によって半ば強制的にそれは終了する。
放課後、帰り支度も済んだ名前が耳朗にぽつりと溢した。

「私、キャプテンは好きだけど、やっぱアイアンマンには負けるんだよね」
「なにが?」
「気持ちが」

アレの先も乾かぬうちに女をとっかえひっかえするクソを下水で煮込んだみたいな性格なのにね。
と溢す名前とそれに吹きだす数名、偶然通りがかった爆豪とで鬼ごっこが始まるまであと数秒。


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