誰を呪おう

* … 捏造あり

「死柄木、これはなんのつもり」
「だから言ったろ。ゲームさ」

ゲーム。
あの難攻不落とも言われた雄英高校に易々と侵入し、大きなダメージを与えて行ったヴィラン。
そんな記事が書かれている新聞の一面を見ながら、"ゲーム"と言い切った死柄木に思わず手が上がった。
が、それに彼が目の色を変えたことで思わずその手を止める。
この男は触れたモノを破壊する個性だ――だからあの雄英に混乱を与え、その隙に情報を盗み出すことが出来た――。
迂闊に素手で触れれば、自分の身体すら破壊されてしまう。
そうなれば私の死柄木の関係が向こうにバレてしまう。

「どうしてわざわざ校内に侵入してまで計画を進めた」
「それはあんたが言った事だ、"他人を護りながらの戦闘は不利だ"って」
「それはケースバイケースの話。プロヒーローがうじゃうじゃいるような所を襲ったら、一人でも取り逃がしたら失敗するってすぐ分かるだろ」
「あぁ、実際取り逃がして失敗した」

死柄木は、見ていて痛くなるぐらい首をガリガリと掻いてそう低い声で呟いた。

「お前は失敗してくれた方が良かったんだろ、なぁ?」

下瞼の浮いたにたりとした笑みを向けてくる男に、返事はしなかった。
いま雄英で動いているセキュリティを導入させたのは先代の校長であり、開発者は私の父だ。
今回襲撃され大きな損害を受けたUSJのセキュリティには少しだが私の噛んだソースも混ざっている。
おまけに警報が鳴らないよう仕組まれたとなれば、これは顔に泥を塗られたも同然だった。
ナチュラルボーンヒーロー・オールマイトを舞台から引きずり落とし、殺すという大義のため、偶然USJが選ばれたのか、それとも。
代わりに冷たい視線を送っていれば、死柄木はケタケタと腹を抱えながら笑い出す。

「今回であんたの父親は面目丸潰れだろうなぁ。お前も校内じゃ風向きが悪いんじゃないか?」
「お前には関係ない」

高校教師を始めて数年、多くのプロヒーローと接し、将来有望な生徒たちと戯れた。
だれがどんな弱みを持っているかも粗方把握できたし、最近、新星として話題になっているヒーローもどんな個性かも知っている。
私が無個性でありそれでもヒーローとして活躍してるのも、ある程度の教師たちは知っている。
だがこの男と繋がりがあることは知る人物は、"まだ"いないはずだ。
つい数か月前に出会い、唆されたことも。

拒否し関係は絶つつもりだった。
もちろん上にも彼の存在を報告するべきだった。
なのに、なぜしないのか、自分でも分からなかった。

「個性の中にも優劣があるんだ。無個性なんかがオレたちに勝てるはずがない」

ジリ、と胸の奥が焼けるような感覚がする。
なぜヒーローになったのかと尋ねられればそれは私が無個性だったからだと答える。
曾祖父が設立したIT企業は、代々無個性が継いできた。
父も無個性であり、その長女である私も無個性だ。
それから逃げたくて逃げたくて仕方がなかった、だからヒーローを目指した。

「おまえ、いつまでそっちにいるつもりなんだ?」
「…死ぬまで」
「じゃあ、なんでここにいる?」

全身の肌が粟立って、死柄木を睨む。
その目ヴィランみたい、そう笑う死柄木に、すぐそばにあった卓状にあったアイスピックを取り上げた。


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