一番遠くの一番星

本誌バレあり
まだちゃんと読めてないので相違点がおそらく絶対ある
(あと寝ぼけ眼で書いてるのでミス連発かもしれない)(ごめんなさい)

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「これ、どう思う?」

帰り道で久しく顔を合わせていないな、と思い始めてから数日。
きっと体育祭で成果を出して、そのおかげで教師陣から良いお話を受けているのだろう。
きっとそうだろう、そんな風に自分に言い聞かせた矢先のことで、しばし反応が遅れてしまう。
それも、顔を合わせることはあっても、お互いがお互いのグループで行動している真っ最中で、声をかけることのなかった校内だ。
この光景を誰かに見られてやしないか、という謎の気まずさがある。
夏休み前に聞いた例の告白の件もあったし、正直、落ち着かない。
が、逃げたら逃げたで余計噂になりそうで、その衝動を理性でぐっと堪えて心操の声に応じた。

大中小の妖精が出てくるアニメの少年さながら、「ん」と押しつけるように見せられる紙。
よくよく見ると、「コスチューム申請書」という題目と、その下の余白を隅々まで大きく囲られた四角のあるコピー用紙。
その囲いの中には彼の手書きらしい要望の数々と、彼なりに上手く描いたのだろう人型と―世間一般では―奇抜な類に入る服飾が描かれていた。

「これ、ヒーロー科の?」
「そう。経営科から見て、どう思う?」

おそらく彼が聞きたいのは、概ね"この要望がどの程度、制作会社に通してもらえるか"ということだろう。
――それならば返答は"心操の個性を考えれば、概ね通るだろう"。
なのだろうが、その要望欄よりも何よりも、きっと彼が"一番通したい"のであろうデザインの方に目が行ってしまう。

「……心操って、イレイザー・ヘッド好きだったんだ」

私たちが入学する前、今年からかの偉大なヒーロー・オールマイトが教鞭を執ると数ヶ月にわたって話題になった。
が、もともと雄英は本職のヒーローが集って卵とその雛鳥たちを育てている学校だ。
オールマイトに限らず、世間的に有名でファンの多いヒーローもこの学校には在籍している。
このイレイザー・ヘッドもとい相澤先生も、一般人には知名度が低いが、知る人ぞ知るそこそこ人気のあるヒーローだ。
そして、心操もこの知識程度には知っていた存在の一人であると知り、思わずそんな言葉を発してしまう。

「、……言ってなかったっけ」
「うん。ちなみに私はマニュアルヒーローが好きだよ。マイナーってよく言われるけど」

何による驚愕かは分からないが、心操はつかの間、身体と表情を強ばらせた。
その理由を突っ込んでも良いことはあまり無さそうだから、「たぶん要望は大体通ると思う」と話しを戻す。

「やっぱり、ボイスチェンジャーは必要だよねぇ」
「先生にもそれは言われた」
「デザイン系は履修してないからなんとも言えないけど、ボイチャとこの捕縛のやつは少し変わるかもしれないね」

それも先生に言われたと相づちを打たれ、ふむふむと興味深そうにもう少しよく見てから用紙を返す。
「ところでさ」ふと頭に浮かんだ事が口に出る。

「これ、サポート科の人に見せた方が有益な情報がもらえると思うんだけど、もう聞いた?」

もう提出間近っぽいし、あまり意味ないかもだけど。
サポート科の面々を思い出し、ヒーロー科に並ぶ個性豊かな彼らがフラッシュバックする。
あのマシンガントークは、"創らない"側や統計学でコトを済ませてしまう人間には宝庫の山なのだが、なによりもまずその情報量の多さに辟易してしまい、逃げ帰ってしまうこともしばしばあった。
個性派に当てられたことのなさそうな心操では10秒も持たなそうだな、と思ってしまう。

「……いや、見せてない」
「そっか」
「こんど紹介してくれる? 知り合いは多い方が良いから」

「いいよー」と二つ返事を返し、比較的予定が空いててアクの少なそうな人を指折り数えていく。
そうでなくてもきっと、"新しいヒーロー科の生徒と知り合える"となれば、ムリヤリにでも予定をこじ開けてくる人は複数いるだろう。

「苗字って、頼りになるよな」
「そうかな?」

都合が良いとも言うけど、という言葉は飲み込んで、「ありがとう」と返す。
同じ小学校出身、中学は違うけど会えば挨拶は交わしたし、高校ではこうして親しくやっている。
"幼馴染み"と言っても問題ないような関係なのに、心操はどんどん次のステップへと進んでいく。
そうやってあっという間に遠くへ行ってしまいそうなのに、こうして隣にいるのがとても不思議な感覚だ。

「それは俺の台詞だって」

申請書を大事そうに仕舞いながら笑う心操に、どうしてか「おめでとう」という言葉が出てこない。
なぜそんな簡単な言葉も掛けられないのか。
この自己嫌悪すら知らない心操は、嬉々とした様子で「それじゃ」と別れを告げる。
きっと、そのコスチュームの申請書を先生へ届けに行くのだろう。

どんどん遠くへ行ってしまう友人に疎外感を覚えている私の気も知らずに。
それにすら自己嫌悪を覚え、どこかへ消えてなくなりたい私のことも知らずに。


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