あるこーる

アルコール度数の高いものは「飲むと息苦しくなる」という理由で苦手らしく、おまけに「ワインは渋くて嫌」「ビール?なんであれが人気なのか分からない」と続けた。日本酒は匂いからしてムリらしい。
大概、彼女の部屋にある缶の残骸は、自称無類の酒好き曰くジュース感覚で飲める、女性向けのものがほとんど。
度数は2桁にも届かない数値だったが、缶一本飲めばすぐに顔を赤くするレベルの体質のようだ。
安否を尋ねれば「大丈夫大丈夫」とあっけらかんに言って、数杯の水を飲み、トイレに何度か足を運べばあっさり顔色が戻る。
そうしてまた一本を飲み干して顔を真っ赤にし、水を飲んでトイレに行き…の繰り返し。

そういえば、と名前がまだほんのり赤い顔で言う。
「まえ、なんで外で飲まないのかって聞かれましたよね」と言った。
自分の記憶には無かったが、おそらくどこか酒の場で聞いたのだろう。
飲み会には何度か来ていたが、そこで彼女がアルコールを取っていた記憶はない。
飲んでいるのは大抵ジュースかウーロン茶で、酒が飲めないのか、外では飲めないような体質なのか、と踏んでいた。
しかしこうして見ている分にはペース配分もできているし、飲みに行った際マイクにごり押しされたてもきっぱり断っていた。
それを考えれば、あまり問題ないように思えるが。

「自意識過剰って思われるかもしれませんけど、男の人がたくさんいる所でお酒飲むのってなんか不安なんですよね」

ああなるほど、と思う。
個性を持っているとはいえ、一応は女であり自分と同じくヒーローと活躍している身でもある。
自己防衛の拍子に店やら他人の家やらを半壊させては活動に影響するだろう。
自分と違って目立っている名前らしい。
まず、自分の評価を第一にして行動にでる。
どう動けば評価され、人気を勝ち取り、なにをすれば不評を買い蹴落とされるか。
――そういう打算的な部分を見抜かれ不評を買われている面もあるが。――

「なら俺は?」
「相田さんはそういうことしないでしょ」

相澤だ、と修正すれば、そうでしたっけ、と白い顔で笑う。
水を飲み干しトイレに立った。
戻ってきた彼女は「残りも全部飲んじゃお」と、机上に残っていた2本のそれを同時に空ける。
飲みますか、と1本勧められるが断った。

名前は一気にすべて飲み干すと、ヘラリとした顔で「二日酔いやばそー」とぼやく。
水も一気飲みするのを見て、そういえば水にも致死量が、とぼんやり思った。
顔がじんわり赤くなってきている。

「相澤さんって恋人とかいるんですか?」
「いない」
「じゃあ奥さんは」
「それもいない」

なんでですか、という問いには答えなかったが、深くは追及してこない。
まあ合理的が大好きな相澤さんですしね、と赤い顔でぼやくだけだ。

「そういうお前は」
「万年喪女ですよ」

と自虐的にケラケラ笑いながら言う。
しばらくトイレに足を運んで、普通の顔色になるには少し時間が掛かった。
そろそろ帰ると伝えれば、「じゃあ立つのメンドイので鍵お願いしていいですか」と鞄から取り出したマスターキーを預けてくる。
どういう神経してるんだ、と言えば、「だって相澤さんだし」とあっけらかんに言う。
頭を小突けば暴力反対と喚いて、嫌だったらいいです、とふてぶてしい顔になる。
子どもか、と思った。

鍵はどうしておけばいい、と尋ねると、少し驚いた顔をした。
まさか了承されるとは、という顔だ。
しばらく瞬きを繰り返した後、植木鉢の下にでも隠して置いてください、と言う。
防犯意識低いな、と思いながらも、鍵を掛けた後、共用廊下にぽつんとある小さな鉢植えの下に隠して置いた。


時刻を確かめると、あと半刻で日付を跨ぐ時間だ。
名前のあの部屋は深夜でも賑わう繁華街から一本外れたところにあった。
繁華街にでればまだ人通りがあり、チカチカと目に痛い色の店が点在している。
名前曰く時々ヤバい人が出るから夜遅くには出ないようにしているらしい。
ポケットに手を突っ込んで、冷たい板状の金棒を探る。
だれが見ているか分からない廊下に置いていくにはやはり心配だった。
自分と違い、名前は有名すぎる。
報道陣等を避けるために複数の部屋を用意しているとはいえ、あそこにいると勘付かれていないとは言い切れない。
――彼女を狙っているのは報道陣だけではないのだ――
客引きをなんとか振り切って、暗い帰路に戻った。


翌日、珍しくギリギリで出勤してきた名前にそれを返すと、「なんで言ったところに置いてくれなかったんですか!」と鬼気迫った顔で憤っていた。
なんでもマスターキーしか持っていなかったためわざわざ管理人に届け出を出しにいったらしい。
馬鹿だろ、と言えば何も言い返せない様子で、震えながらそれを受け取った。


もくじ
表紙に戻る
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -