余熱はいらない

夢主の名前がでません

 ***

ある日の休み時間。
クラスはそこそこ賑わっていて、ごく普通の雰囲気が流れていた。
鉄哲は何気なく廊下にでていったとき、教室の入り口から少しはなれたところに少女がいるのが目についた。
教室の中からは気づかない場所だ。
その少女は鉄哲を認識すると、あからさまに身体をピンと伸ばす。
それを見て、すぐに彼は「B組に用事があるのだな」と思った。

「あの、鉄哲くん、ですか?」
「そうだけど、どうした?」

自分たちが一番下の学年なのだから、敬語を使うのは同学年に決まっている。
知らない顔なのに彼女が名前を知っているのは、ヒーロー科がそこそこ注目の的で、鉄哲は体育祭で活躍していたからだろう。
そう思って、鉄哲はそう返事をした。
その少女は見るからに緊張しているし、声も固い印象だった。
だから少し緊張をほぐそうかと思って、なるべく普通の声で、フレンドリーに返す。
それでも少しも緊張が抜ける様子はない。
鉄哲が内心首をかしげてなにか声をかけようとしたとき、少女の方が先に口を開いた。

「あ、あのっ、これ!」
「これ?」

手に握っていた箱のようなもの。
鉄哲も、少女の手の中にあるものには気がついていた。
赤やピンクや茶色の暖色系が使われた、いかにもな箱。

お、と彼は思った。
雄英高校ヒーロー科の生徒とはいえ彼も少年である。
時期が時期だけに期待もする(その最たる例がA組の某少年だ)。

できるだけ平然とした態度で少女に応じるが、普通の反応できているか正直怪しい。
押しつけるように突き出してきた手から、落ちそうになったその箱を慌てて受け止める。
その箱から視線を少女に向けたとき、彼女の顔はゆでだこのように真っ赤になっていて、鉄哲は心底おどろいた。
さっきまでは少し赤みが差していたとはいえ、それでも普通の顔色だったのに。

「だ、大丈夫か」

個性だろうかと思って、それでも心配してそう声をかけると、「じゃあ!」と叫んで踵を返す。
踵を返してからのスピードが、それまた速い。
そういえば名前や学科を聞いてなかったことを思い出し、鉄哲は慌てて追いかけたが、曲がり角についたときには少女の姿はもう見えなかった。
そうして、しばらく呆然としていた少年が振り返った先にあったのは、教室の扉から好奇心旺盛な顔を覗かせたクラスメイトたちだった。
彼らの猫がネズミを目の前にいざ飛びかからんとするような目つきの先――少年の手には、どう見ても言い逃れのできない箱だけが鎮座している。

「誰にとか、誰からとかは聞いてねえぞ!」

鉄哲のその空しい言い逃れは、A組まで届いたという。


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