似て非なる君2

暴力・流血表現あり

似て非なる君と同じヒロイン
未成年の飲酒・喫煙ネタが含まれていますが、それらを推奨している小説ではありません
時間軸が曖昧です、合宿中じゃ轟くんがいるし、アジト襲撃の回は読み損ねてるし、な捏造過多小説

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「てめえ、ふざけてんのか!」
「そう見えるんだったら帰れば!」

ぼん、と爆発音がして、砂煙が舞う。
爆風は私のすぐ横を掠めていって、彼が私を狙っていないのは確かだ。
「優しいのね」と言えば、「ぶっ殺すぞ!」と返される。
爆豪らしいと思った。

テレキネシスで私の周りの砂埃を散らして、目眩ましに爆豪の周辺の粉塵を舞わせる。
一緒に爆豪も飛ばしたかったけれど、まだ"貰った"ばかりで思い通りに人を移動させることはできなかった。

「なんでテメエまで個性持ってんだ!」
「"先生"から貰ったのよ!」

誰だよそれ、と言いたげに、また熱と爆風が掠める。
さすがにすべての爆風は防げず、身体全体に熱風が襲った。
ひどい、そう言いそうになって、彼を思いっきり突き飛ばす。
触れてもいないのに爆豪が飛んでいくのを見て、ああ本当に無個性じゃなくなったんだ、と思った。


"先生"に勧誘されたのは、雄英の体育祭から少し経ったころだ。
テレビで爆豪の様子を見ていて、開会式では若干の落ち着きを見せたと思えば、メダルの授与式では中学の比ではない荒ぶりを見せていた。
もし私があそこにいたら、「あれじゃヒーロー志望には見えないよ、バカじゃないの」と言っていたかもしれない。
中学の友達とも「雄英でもあれは矯正できないのか…」と嘆いたくらいだ。

「名前は、爆豪とはもう会ってないの?」
「うん。だって中学卒業したらもう何の繋がりもないし」
「…あんたたちさあ、中学の時"付き合ってる"って噂があったの知ってた?」
「知ってた。でも否定したらしたで、また騒ぐでしょ? だから、聞かれない限り黙ってたの」

今思えば、そんな噂もストレスの一つで、煙草やお酒に走ってしまった一因だったのかもしれない。
私にとって爆豪の世話役は"地位"を築くための一つの手段であって、なにか特別な感情は抱いてなかった。
他に比べればというだけで、恋愛感情のそれではなかったから。

周りが無個性の私に憐れみや蔑みの目を向ける中、爆豪だけは無関心だった。
無個性と馬鹿にするのは幼馴染の緑谷だけで、それ以外はモブとしか見ていなかったのだろう。
彼にとって私は先公の叱責の緩衝材でしかなかったのかもしれない。
だからそれ以上の価値は私にはなかっただろうし、だから他愛のない会話はほとんどなかった。
まともな会話だって、卒業を目前に「もう煙草もお酒もやらない」と約束したときぐらいだった。

「ねえ、もし私が"実は個性持ってる"って言ったら、どうする?」
「その話はもうやめようよ。そんなのは緑谷で充分」

無個性の緑谷出久が雄英高校ヒーロー科に合格した、という話は、もはや伝説だ。
だって、個性を持っている人間でも落ちる試験なのに、彼が合格してしまったのだ。
一部では「実は雄英関係者」だとか「試験に穴があった」とか騒がれていたけれど、体育祭でそれらはすべて消えた。
あれを見れば、誰だって気付く。
緑谷出久が無個性だったというのは嘘だったのではないか
どう見ても、彼には個性があった。

「でも、羨ましいなあ」
「あんたはあんたなんだからいいじゃない」

個性が羨ましい。
そんな劣等感が疎ましくなくなった今でも思う。
だから、"先生"の勧誘に揺らいでしまったのだ。

「君、あの爆豪くんと親しかったって聞いたけど」
「比較的良好な関係だっただけです」
「それで十分だ。条件はいいと思うんだが、どうだい?」
「……それだけでいいのなら」

そう受け入れれば、先生は嬉しそうに承諾してくれた。
私の勧誘に、爆豪の名前が出た――つまり彼をヴィラン連合に誘うために、私に声が掛かった。
私の価値はそれだけだ。爆豪を勧誘するためだけの存在。
「個性を与える」というのは餌みたいなもので、彼を引き入れてしまえば、あとはポイするだけかもしれない。
それでも。


「爆豪だって知ってたでしょ? 私、個性が欲しかったのよ」
「テメーもデクみてぇなこと言ってんじゃねえ!」
「えっ、デクくんも"先生"から貰ったの?」

デクみたいなこと――個性が欲しかった、"先生"から貰ったの――考えても見れば、10代半ばまで個性を隠し通すなんてムリな話だ。
それこそ、幼少時代に年不相応の破壊を見せていても不思議ではないのに。
だから"先生"から個性を授かったと考える方が妥当だった。
どうして今の今まで気が付かなかったのだろう。

「あっ、でも死柄木さんに"殺せ"って言われてたよな、なんでだろ…」
「ブツブツうるせえ!」

ボ、と耳元でくぐもる音がする。
相次いで感じたのは風圧で、視界が急転したあと全身に激痛が走った。
頬にもチリチリとした痛みが走っていて、顔をぬめりとしたものが伝う。

「女子の顔に向かってとか酷すぎ…」
「尻拭いから敵に転職したヤツが言ってんじぇねえよ」
「はっ、全然ヒーローらしくない人に言われてもな」
「あ゛ぁ?!」

爆豪の答えは最初の一撃でもう分かっている。
こうして一人で戦わされている私に対する、ヴィラン連合の扱いも。
爆豪はヴィラン連合の勧誘に乗らなかった、私の勧誘は失敗した、私はもう用済み。

「ねえ、爆豪。私、本当に煙草とお酒やめたんだよ」
「ああそうか、でもそれがなんだってんだ。もう俺には関係ねえ」
「ふふ、やっぱそうか。…でね、でもやっぱり我慢できなくてね、ついこっちに走っちゃったの」

東京の進学校に成績トップで入学して、一学期もきっとトップの成績を誇るだろうねと先生に言われた。
「すごいね」と言われるその言葉の裏で、「無個性だからここでがんばるしかないんだろうね」と言われているような気がした。
ヒガイモウソウだとは分かってる、でも、私みたいな無個性は、ヒーローにもヴィランにもなれない。
無個性というだけで、可能性が潰される。
これ以上の屈辱があるのだろうか。

「ねえ、爆豪。私、これでもヒーローになれるかなぁ」

口の中が、鉄の味がする。
しばらく無言で私を見降ろしていた爆豪は、「ムリだろ」と言ってしゃがみこんだ。

「お前、何と闘ってんだ」

突然の問いに、ムッとしながら「……世界」と適当に答える。
暗くて爆豪の顔がよく見えなかった。
でも、目が合ってることだけは分かる。
なんとなく分かるのだ。
その目が、どんな目をしてるのかも。

「お前は、こっちだと思ってたんだけどな」

やめてよ
失望するような声色でそんなことを言われて、泣きそうになった。

私だって、ヒーローになりたかった



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