似て非なるきみ

未成年の飲酒や禁煙を書いたものですが、これはそれらを推奨しているわけではありません。
(先生談:女性が煙草を吸うと顔色がすごく悪くなるそうですよ)

 - - - - -

ポケットにいれていた女性向けの細い煙草を取り出して、咥えた矢先だった。
角から現れた爆豪が私を見て、ギョッとした表情をするのを見た。

「てめ、なにやってんだよ!」
「いいじゃない。誰もいないんだから」

学校の外壁際に立てられた体育館。
暗くて、雨の降った次の日はじめじめしていて、正直あまり長居はしたくないような場所。
そんな体育館裏は、大抵不良たち(その大半は個性を持て余した人達だ)のたまり場になっている。
しかし昨日、不良の一人が今日にでもどこか外で敵校とケリを付けると言っていたので、もしやと思って訪れてみれば人っ子一人いなかった。
警察の人やプロヒーローの人達も大変だろうなぁ
今日だってホントは六限まであったのに、五限で早帰りになってしまった。
たぶん早々仕出かしたのだろう、先生たちの怒っているような呆れているような顔はずいぶん見慣れたものだ。

「ねえ爆豪。火、ちょうだい」

ライター忘れちゃったの、と煙草を差し出せば、不機嫌そうな顔のままそれを取り上げられてしまった。
取り返そうにも、即座に爆破されて塵と化されてしまう。
最後の一本だったのに、と文句を言えば、わざとらしく溜息を吐かれる。

「てめえ、もうすぐ卒業だろ。いいのかよ」
「ばれなきゃいいんだよ」

実際、中学生になる少し前から煙草やお酒は始めたけれど、先生はおろか親にだってバレていない。
隠すにはすごく労力がいるけれど、こういう嗜好品は量が大事なんだなって思うようになってきている。

「てめえはオレの尻拭い役だろ、こんな下らねえことで先公の評価下げるんじゃねえよ」
「んー、まあそうなんだけど」

そりゃそうだ。
クラスの学級委員。優等生で、みんなと仲良くする。
そうとまではいかなくとも、クラスの人に嫌われてはやっていけないポジションだ。
学級委員が非行に走ってるなんて、以ての外。
これが最近の労力を費やす理由にもなっていた。

「しょうがないなぁ、分かったよ。だからなんか暇潰しちょうだい」
「いやだ」

学級委員として働いて、先生にその分の評価を貰って、結果いい学校に行けるとしたら、そりゃ嬉しい。
それでもやっぱりストレスは感じるわけで、その捌け口はどこで発散しよう、というと、お酒とたばこ以外なくて。
ゲームでもやってみようかと、それまで貯めていたお小遣いから大御所を三つほど買ってもみた。
そこで初めて生真面目な自分に感謝したけど、中々続かずドブにお金を捨てたと後悔したものだ。

「リア充の人ってすごいよねぇ。どこでストレス発散してるんだろう」
「個性だろ」
「やっぱそれかぁ」

無個性の私には、到底越えられない壁。
みんな思い思いに個性を使っているし、時々被害を受けるとはいえ、羨ましい。
正直、それでいくと今頃先生や警察の人にお叱りを受けているだろう不良たちも羨望の的にもなる。
非行には走っていないとはいえ、素行の悪い爆豪も。
それを言うと、彼は「まあ俺に比べりゃ全員雑魚だけどな」とヒーローらしからぬ発言をした。
爆豪らしいといえば、爆豪らしい。
ずっと周りを下に見ている。自分よりすごい人はいないし、自分はヒーローになれると思っている。
無個性でガリ勉の私を見下す同窓生たちを数多と見てきたが、嫌悪感を抱かないのは不思議と彼だけだった。

「ねえ爆豪、指貸して」
「あ?」

威圧的にそう言いながらも貸してくれる爆豪が、好きだと言えば好きだった。
もしかしたら、彼を嫌悪しないのはそれだからなのかもしれない。
指を貸す、と言われて、若干途惑った様子で手を出してくるその手から、小指を取る。
そうして私の小指で結んで、懐かしい指切りをした。
なんの約束だよ、と聞かれて、もう煙草は吸わない約束、と教えた。


(たぶん私は君に近づきたかったんだと思う)
(でも君はヒーローになるから、もう止めるね)



もくじ
表紙に戻る
第4回BLove小説・漫画コンテスト応募作品募集中!
テーマ「推しとの恋」
- ナノ -