中 無個性ヒーロー

従姉妹とは幾分、歳が離れている。
幼くうるさい彼女ら―特に個性持ちの次女―は、一年に一度会うだけでも憂鬱だった。
その御守りに個性抹消の自分が宛がわれるのは必然だったからだ。

「おじさんのコセーってなんなの」
「あ?」

その年の御守り、小学生になったばかりの長女が不機嫌そうな顔でそう訊いてきた。
そういや、親戚中で集まっていたときも今年はやけに静かだったなと思い出す。

「いつ俺に個性があるっつった」
「だって、おじさんと居る時だけ暴れないんだもん。あの子」

やけに静かにしている妹を振り向きながら、「あとね」と声を潜めた。
内心ひどく面倒くさく感じたが、そんな理由でここで泣かれるのも面倒だとも思い、仕方なく耳を貸す。
子供には無駄が多い。合理性などまったく無関係の生物。
こんな生物の御守りなんぞ、好きな人間たちに任せるべきだのに。

「私、ムコセーなんだって」
「誰がそう言ったんだ?」
「伯母さん。私だけ全然それっぽくないからって。ねえ、それっぽくないって、どういうこと?」
「そういことだろ」
「大人のそういうとこ嫌い」

さらに不機嫌になった長女は、その妹のそばへ駆け寄った。
妹も妹で、今日は個性が使えない日と分かっているのか、大人しく姉の遊戯に付き合っている。
ポケットから、母方の叔父にもらった煙草を取り出した。
毎年、御守りの駄賃としてちょっとした小遣いをもらっていたのだが、今年は「成人祝いも兼ねて」とこれをもらったのだ。
それに逸早く気づいた姉は「家の中でタバコ吸っちゃだめなんだよ」と叫んだ。
理由を問えば、

「だって、お父さんがそうだもの」
「そうだ、って?」
「私のお父さんは、いつも庭で吸ってるんだ。煙は悪者だから外で吸うんだって」

もちろん、喫煙するつもりなど―多少の好奇心はあるが―ない。
すこしの好奇心で足を踏み込めば、高い中毒性で引きずり込まれ、多額の税金で最悪一生沼の底。
叔父がこの姉妹のそばで吸わない理由であろう肺ガンのリスクも考えれば、吸わないのが最良だ。
ゴミ箱にそれを放り込めば、姉が大慌てでゴミ箱を逆さにし「火事!火事になっちゃうよ!」とバカ丸出しの行動に出る。
それを見て怒りながら駆け寄ってくる叔母を横目に、ため息を吐いた。

まさかその十年後、目の前にとつぜん現れて、無個性ヒーローになる、と高らかに宣言したときにはさすがに唖然とした。
アイアンマンがどーのと語る長女の目つきは本気で、雄英高校志願書のなかに苗字名前という名があるのを見つけた。
それを破り捨てたい衝動を抑えるのに、必死だった。
マイクも彼女の名前と個性欄、養父者に気付いたようで、まじかよ、とため息交じりに呟いた。
彼女は要マークだな、と喘ぐ。
また死なれちゃ堪ったもんじゃない、そう吐き捨てた。

prev
もくじ
表紙に戻る
「#学園」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -