猛暑日

加筆修正あり

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「クッッッソ暑い」

思わず汚い言葉を吐いてしまう程の炎天下。
肌を焼いて刺してくる日差しのせいで、肌に塗りたくってきた日焼け止めクリームが大量の汗で押し流されていく。
念には念をと先ほどまで差していた日傘も、今はカバンの中で休養中である。
理由は単純、イベント終了後の"オシゴト"をする上で両手を開けさせなければならなかったからだ。

「ここは学外だ、雄英の生徒として言葉には……」

そう隣で説教のような物を垂れているのは元同級生でヒーローの卵、飯田くんである。
中学時代はなにかとお世話を焼いてくれた恩人ではあるが、"大人のように口うるさい優等生くん"でもあったりする。
しかしそれを口にするときっと怒るので言わない。

「飯田くん、よくそんなに一生懸命に働けますね…」
「僕が任された仕事だからな」
「そのことを言ってるんですよ…」

とブツブツ私が愚痴を言っている間も、飯田くんはてきぱきと仕事をしていく。
中学時代と変わらず、真面目オブ真面目である。

コトのきっかけは、本日の午前中に開催されたイベント・マラソン大会だ。
数キロに及ぶルートには学校の敷地内だけでなく、学外の数百メートル分も含まれている。
極度の方向音痴さんでも間違わないように、と各所に置かれたコーンを回収していくのが私たちの仕事だったのだが。

「そもそも、君が手伝いをすると言い出したんだろう?」
「そうですけど! 日陰が全くないとは聞いてません!」

そう、本来、このコーン回収は学級委員でも体育委員でもイベント主催グループでもない私の仕事ではないのである!
ばったり下校中に出会った飯田くんに「一人なら私も手伝いましょう」と軽々しく言ってしまったのが運の尽き。
私の走ったコースに日陰が多かったことを理由に、ほいほい付いて行ってしまったのだ。
時間帯もあったのだろう、コーン回収に向かった頃にはすでに"ひ"の字すらなく、照焼き宜しく日差しに焼かれる羽目になった。


せっかくの善意を業火で焼かれた気分だ。
後々臭い始めるだろうハンカチをどう扱うか悩んで、コンビニで小さな買い物をする。
飯田くんは相変わらずオレンジジュースを、私は最近見かけるようになったストレス軽減効果のあるチョコレートを買う。(本来得たい効果がでるかどうかは別だ)
私はさっそくそれを食して残骸をゴミ箱に棄て、残った袋でハンカチを括ってカバンの奥に詰め込んだ。

「僕はこれを片付けたら職員室に向かうが、苗字くんはどうする?」
「教室で涼みます」
「そうか。なら先にこれを…」

そう言って思い出したかのようにカバンから取り出したのはスポーツドリンク。
飯田くんにこの仕事を頼んだ教員が、本来は彼の仕事ではないのに…と心を痛めて恵んでくれたものらしい。
なんだ、飯田くんのオシゴトでもないじゃないか、とも思ったが、とりあえずこの善意は貰っておく。
きっと受け取らなかったら受け取らなかったで、また小言が増えるからだ。
しかし、すぐさま口にする体力も気力もなく、教室で飲もうと開けずにその場で別れた。

「轟くんもいればなあ」

一人階段を上りながら、思わずそう独りごちする。
半焦半冷の"個性"を持った彼は、建物一つ建設できるほどの氷山を一瞬で作り出せるほどの強者である。
彼がいたなら冷房いらずでさぞ助かっただろうに。
幸い、教室を最後に出て行ったクラスメイトが空調機を消し忘れたらしく、適度に冷やされた環境だった。
誰の席かも調べず、空調機の風が直撃する席に座り込む。
思わず机に突っ伏して、そうだスポーツドリンクを、と考えたところで、急な眠気に襲われた。

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