並んだ足跡

大寒波を告げるニュースキャスターの声を後ろに、名前は「いってきます」と告げる。

「最近、よく出かけるわね。またミコちゃん?」
「うん。あたらしいともだちもできた」
「ほんと? なら良かった。でも、今日は早く帰って来てね」
「……わかった」

彼女の声のトーンが少し下がるのに、シッターは呼び止めた。
名前が振り向いて、若干ふくれている顔を見せる。

「お母さんたち、今日は絶対に帰るからって。チキンも用意するそうよ。あなたの大好物も」
「このまえもそう言ってた」
「名前ちゃん」

さらにトーンを落として返事をした矢先、身体全体に軽い衝撃と圧迫感が襲った。
名前を抱きしめながら、シッターが言う。

「大丈夫よ。今日は絶対に帰って来るって。私が言うんだから」
「…わかった」

軽く抱き返せば、一段と強く抱きしめられてようやく解放される。
肩を優しく叩かれながら玄関を出ると寒波のせいで積もった雪で、一面が白くなっていた。
まだ白くなだらかな庭に、二人分の足跡を付けていく。

「道理で寒いと思った。ちゃんと暖かくした?」
「したってば」
「名前ー!」

名前の庭先に止まっていたモスグリーンの車。
そこからミコが手を振っている。
運転席には気の良さそうな男性が座っていて、名前のシッターに軽く手を振り返していた。

「あの人も?」
「ともだちのおとうさん」

名前は、嘘をつくのはあまり好きでない。
でも、正直に言っても信じてはくれないだろうし、本気にされてしまっても厄介なことになる。
シッターもあまり深く詮索はせず、同じように彼に軽い挨拶をして、商店街へ向かった。

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「見えない臓器の名前は」
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