まどろっこしい視線

「なによ、ラチェットも人間の女の子けしかけて」
『変な言い方をするな、ミコ!』
『じゃあどうしてラチェットなんかが人間のオンナのコと知り合いなんだよ』
『それは…』
「たすけてくれた」
「誰から?」

ミコからそう尋ねられて、少女は顔をしかめて押し黙ってしまう。
それに代わってラチェットが答えた。

『同い年ぐらいの少年たちに絡まれていてな。見ていられなかったから声をかけたんだ』
「小突かれてた? だれに?!」
「えっと、それは…」

その日、オプティマスに休養と気分転換を勧められ街中を走っていた。
その際街角で、少年に腕を掴まれ必死に抵抗している少女を見かけた。
赤信号でしばらくその光景を見ることになったのだが、さすがに少女が居た堪れなかった。
彼らに近づき窓を開け、ホログラムをのぞかせながら『何してるんだ』と畳み掛ければ蜘蛛の子のように去っていく。
内心、まったく愚かな生き物だと蔑みながら少女を見下ろせば、今にも泣きそうな顔で。
ラチェットの知っている子供たちは、そんな表情をすることは滅多にない。
動揺しながら、大丈夫かと、できるだけ優しげに声をかけた。
しかし「ごめんなさい。ありがとう」と言ってぴゃっと駆けて行ってしまった。
人間との接触は控えるつもりだったが、バレていないようだし構わないだろう。
こんなふうに再開するとは思ってもいなかったが。
それを話せば、途端にミコはすごい剣幕になって少女を問いただし始める。
だが少女は口ごもるばかりで、名を口にしようとしなかった。

『たしか、下っ端がリーダーをヴィンスと呼んでいたな』
「あぁ、ヴィンスならしそう」
「分かった、ヴィンスね! バルクヘッド、血祭をあげにいくわよ!」
『おいおい待てよミコ』

まだ少女の待遇について、なにも決まっていない。
ファウラー捜査官にも連絡がついていないのだ。
少女がこの状況に冷静であるのも不思議だった。

「えっと、ミコ。彼らはなに」
「バルクヘッドたち? 宇宙人!」
「うちゅうじん、」
『たのむから余計なことはするな』
『トランスフォーマー、だ。オレはバルクヘッド』
『バルクヘッド!』
「ばるくへっど、覚えた」
『…ミコ、今日はひとまず帰りなさい。きみは、今日のことは他の人には話さないように』

少女の茶色い瞳が、一瞬揺らいだ。
それを無視してブーイングをするミコに言い聞かせる。
まるで正反対の二人。
ミコを相手にしていて疲れるだろうな、とラチェットは思った。

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