夏休み前@

「なあ」
「はい、なんでしょうか」

若干の棒読みになりつつも、余計なことをしゃべらないようにと自制する。
自分から話しかけてきたくせに、初っ端から不機嫌そうな顔をしている心操に、頭の中で警鐘が鳴る。

(え、最後に喋ってからどのくらい経ってたっけ、たしか梅雨だったよな。え、じゃあ3ヶ月ぐらいか、すごいな私)
「これ、担任がやっとけって」
「あー前言ってたやつか…」

先生に使い走りをされたあげく、相手が私だから不機嫌なのか、と妙に納得しながら、その手にあったプリントの束を受けとる。
月一で配布される学級報誌の端にいつも載っている、学級アンケートのプリントだ。
それを毎月、私が集計してそれを先生に提出することになっている。
内心、面倒くさいなあと思いながらお礼を言って、足早に心操の元を去ろうとする。
が。

「それ一人でやんの?」
「え、そうだけど」

至極当前のことを尋ねられ、見ると、呆れ顔とも困り顔ともとれる表情を浮かべている。
どうしてそんな顔をするのか分からず理由を尋ねると、

「だって、結構な量あるだろ」
「でも一人でできる量だよ」
「…………」

たかがクラス30人分のアンケート用紙。
だけど項目が20も30もあるから、集計の数はそれなりに多くなる。
(ほんと、たかがアンケートでそんなに質問数を設置されても、と思う)
がしかし、やはり一人でこなせない量ではない。
むしろ複数人でやった方が、混乱して時間が掛かりそうな気もする。

「心配ありがとう。じゃあ」

そう無理やり会話を終わらせて、踵を返す。
久し振りに心操と話したせいか、嫌に動悸が激しい。
振り向きざまに見た心操の表情はあまり納得のいっていなさそうなものだった。
どうして嫌われているのにあんな顔をするのだろう、と思う。
私が素直に手を借りたとして、心操にしてみれば面白くないだろうに。

「で、どうして付いてくるのですか?」
「いや、だってどう見ても時間が掛かりそうだったから」

余計なお世話なら帰るけどさ、と心操は呆れ声で言う。
時計をみれば、下校時間まであと少し。
たとえそれを過ぎたとしても、先生に仕事を任されたのだから、許されるに決まってる。

「確かにそうだけど……」

そう口ごもりながら、本当に一人でできるしいいよ、と、口にしようとした私は、次の心操の言葉で思いきり眉間に皺を寄せることになる。

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