2日目

「あの、心操くん……」
「…なにか?」
「ええと、昨日のことなのですが……」

昼食後。
午後の授業が始まるまでの休み時間、私は教室へ戻る途中の心操を見つけ、すぐに駆け寄った。
が、最初こそ(とりあえずの)反応を示してくれた彼も、昨日の話題に触れた瞬間、私に背を向け歩き始めてしまう。
こうもあからさまな反応をされてしまうと、頭では分かっていてもかなりきつい。

「ちょ、ちょっと待って! お願いします、理由だけでも教えてください!」
「…………」
「私、なにした?! いや、なにか言った?!」
「うるさいなあ」
「いやうるさいのは分かっ」

あ、しまった。
そう思ったときにはもうすでに遅い。
「静かにしててよ」という心操の指示に、私は従うほかなかった。


「で、そのまま放課後、私にド突かれるまで洗脳されてて逃げられた、と」
「しかもご丁寧にノートまで取っておいてくれた始末なので墓穴掘ってそのまま埋まりたい…」

私を洗脳したあと、彼がどんな指示を出したかは分からない。
けれど洗脳されていた私は、とにかく大人しくしていたらしい。
たぶん、いつものお喋りにまったく興じない私を訝しんだクラスメイトは多いはずだ。
で、放課後のホームルームが終わっても自席に座っていた私を彼女がド突き、心操の逃走に気付いた訳である。
("逃走"という表現がどうなのかは別として、個人的にはそんな心境だ)

「ていうかさ。昨日はなんの話してたの?」
「えっ?」
「いや、心操が言いたがらないんだったら自分で探すしかないじゃん」

正確には私と一緒にだけど、と友人は言う。

「え。えぇ〜? なんの話してたっけ…」
「とりあえず何から話し始めたの?」
「えっと、えっと…たしか、ヒーローがどうのとかそんな話だった気がする」


「いや、全然違う」
「違うの?! えっじゃあなに? なにがまずかったの?!」

放課後。
もういないと思っていたけれど、教室に戻ればそこに彼がいた。
そうして友人と共に導き出した答えを伝えたのだけれども。
再び、渋々と言った様子でとりあえずの返答をした後、私に背を向け歩き出した心操に縋りつく。
傍から見て相当痛いか頭のおかしい行動であることは百も承知である。
が、私のこの行動に、心操が一昨日とは比べほどにならないほど不機嫌な顔をしているのは、まあ気付かなかったということにしたい。

「この一ヶ月で苗字がどういう人間かってのは分かってるから、アレぐらいじゃ全然、なんとも思わないし」
「いやいや、だってさ? 普通に考えて"心操くんもヒーローになれるよ"って、なに上から目線なんだよ嫌味かって思うじゃん!」

雄英高校ヒーロー科、倍率は毎年、他の科では考えられないレベルの数値を叩きだす。
そして当然、他の学科も人気が高く、体育祭の制度を知ってか知らずか元ヒーロー科志望の生徒も多く進学してくるわけで。
心操がその一人であると知った私は、例の個性のこともあって「なんだヒーローとしても使えるじゃないか」と思い、先の台詞を、一昨日言ったのだ。
思い返せば、心操が突然不機嫌になる少し前に言った言葉だったこともあって、絶対にそれだと思ったのだが……。

「ねえ、そろそろいい加減、離してくれないかな」
(その手には乗るか!)

ため息交じりに見下ろされ、反論しようと口を開きかけたが、それをぐっとこらえる。
前回はこれで逃した、二度と繰り返してたまるか。
そう頑なに閉口して、掴んでいた腕をさらにきつく握りしめる。

「痛いんだけど」
「あっごめん」

prev next
表紙に戻る
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -