1日目

「あのさ、それやって俺がなんとも思わないとか思ってるの?」
「え? なにが?」

唐突な問いに、思わず素っ頓狂な声を上げてしまい、心操の顔を見ると、不機嫌であるのは火を見るよりも明らかだった。
彼の言う"それ"が分からず、「えっと、ごめん。ホントになに?」と尋ねると、もういいというようなことを言って去っていく。
ひとり教室に取り残された私は、ただ茫然としているだけだった。


「で、私のトコに来たの?」
「うん。私、なにか変なコトするときある? って聞きたくて」
「あっそう…」

しばらく教室で右往左往していた私は、このままではよくないと思い、とにかく心操を追いかけようとした。
しかし、急いで下駄箱へ行き、靴を履き変え校門へダッシュしたが、すで彼の姿は見えなかった。
やはりそこでも途方に暮れていた私は、委員会の仕事でまだ学校に残っていた友人のところへ出向いたのだ。
幸運にも彼女はまだ校内で仕事をしており、予想通りの場所にいてくれたので、心操のようなことにはならなかったのだが…。

「あんたさ、結構無神経なところはあるのよね」
「……い、いちおうそれは自覚しているつもり、です」
「まあそれが我慢できるかできないかによるんだけど」

たしかに、過去に数度、女子特有の陰口で似たようなことを言われていたことはある。
直接的ではないにせよ思ったことはわりとはっきり言ってしまう性格で、周りが十何枚もオブラートに包んで口にすることを、私は1,2枚しか包まないからそうなるのかもしれない。
むしろ皮肉や無神経なように聞こえてしまうこともあったはずだ。
それを言えば、「本音で付き合えるっていう美点でもあるけどね」と慰めを貰う。
私はそういうこともできないのだ。

「ああ、やっぱり心操になにか言っちゃったのかなぁ」
「だろうね。あんただとそれぐらいしか思いつかないし」

しかもあの心操でしょ、と彼女は言う。
人格面では特別なにかあるわけではないが、個性に関しては特別扱いの難しい少年だった。
はっきり言ってしまえば足を着けずに犯罪まがいなことができてしまう個性。
私もそう思った。
でもそれを直接言ってしまうのは当然憚られるから、「便利そうな個性だね」と。

が、どう考えたって皮肉な言葉だ。
"洗脳"に対して"便利そう"だなんて。

「まあ明日、もう一度聞いてみたら?」
「うぅ…そうしてみる……」

そろそろ仕事の邪魔だからと教室を追い出され、いつもよりずっと遅い時間に下校する。
なんて聞こう、どう尋ねれば答えてくれるだろう。
そんなことを延々考えながら、私はただひたすら肩を落としていた。

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