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「ごめんなさいね、あんな待ち伏せみたいなことして」
「いえ…あの、苗字さんは?」

商店街から少し道を逸れたところに、そのカフェはあった。
車に乗ることには少し抵抗があったけれど、少し話したいという苗字の母親に従った。
苗字のことを尋ねると、案の定顔を曇らせる。

「あの子とは、どうして付き合い始めたのか聞いてもいいかしら」
「オレとアミはLBXのお店の前で。カズはそれより前からだよね」
「あ、ああ」

話を逸らされ、急な流れに思わず固まった。
LBXを嫌っている当人の目の前で、操作を誤り庭に侵入した、なんて言えるものか。
なんとか誤魔化そうと言葉を考えるが、なかなか良い嘘が思いつかない。

「もしかして、あの日かしら」
「え?」
「名前が庭から、緑色の細かいプラスチックを拾ってきたのよ」

あれ、後から思い出したんだけどLBXのパーツよね。肘かしら?
自分はいま、どんな顔をしているのか。
ただ声を出そうにも、え、あ、としか出ず、アホな顔をしているのは分かった。
苗字は、親たちはLBXに詳しくないと言っていた。
なのに、この母親もウォーリアーのパーツを言い当てた。
なぜ? どうして? 疑問が頭を埋め尽くす。

「私たちは…私と夫はね。昔、LBXの下請け会社に勤めてたのよ。そこで一度、試作品のLBXを貰ってきたことがあるの」

なんでだと思う?
そんな問いに、アミ、バンと視線を交わした。
バンはきょとんとした顔をしていて、アミは訳が分からないという顔をしている。
試作品を試すなら、狙っている層の意見を聞くのが一番いい。
姉がケーキ屋でバイトしていた時のことを思い出した。
新作のケーキを、女性である姉と母に味見してほしい。
そうシェフに頼まれて、その時まだショーケースには並べられていない新作ケーキを持ってきていた。
じゃあ、LBXの場合は?

「苗字が、いたから?」

苗字の母親は、すこし驚いた顔をして「あたり」と眉毛をハの字にして微笑んだ。
小学校に上がる前、名前は近所の男の子が持っているLBXを見て、自分もあれが欲しいと両親に強請ったらしい。
当時、発売されたばかりのLBXはいまの既定価格よりも若干高かった。
くわえて突然動かなくなったかと思えば自壊したり、破壊活動を始める個体もある。
無論その話を知っていた彼らは、そんな危険なものを娘に与えようなど考えなかった。

「じゃあ、なんで貰ってきたんですか?」
「自分たちの腕を信じたかったのもあったと思う」
「腕?」
「プログラムの一部を夫が組んだのよ」
「えっ、すごい!」
「そのLBXで名前は怪我をしたの」

好奇心旺盛に応えるバンに、逆に苗字の母親は真顔で続けた。
原因は近隣を走っていたタクシーの無線をキャッチし、プログラムがエラーを起こしたことだった。
自分たちの娘に託すものだ、エラーを起こせば電源が落ちるようにプログラムを組み、試作機ではほぼ100%の確率だったのに。
もっとLBXの安全が確立されてから渡せば良かった。
苗字の母親は、遠い目をしながらそう言った。

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