Fifth-Contact

どんよりとした暗雲。
いまにも降り出しそうな空に、傘を持って行けという母の忠告を聞いておけば良かったと思った。

「あれ…苗字?」

自分の家の、門前。
もはや見慣れた姿があった。
門前に座り込んで、額を膝に押し付けている。
どこかで見たことのあるような光景だった。
その光景に不穏な空気を感じて、嫌な汗がでる。

「苗字、さん?」
「…………」
「ど、どうしたんだよ。こんなところで…」

声をかけても、ピクリともしない。
いよいよ暗雲からゴロゴロと低い音が聞こえてくる。
ポツンと後頭部に水滴が落ちてきた。

「えっと、とりあえず…上がってくか?」

そう呼びかけると、苗字はようやくかすかに頷いた。
俯きながら立ち上がる。ちらりと見えた目は真っ赤で、泣きはらしたみたいだ。
家に入るとちょうどリビングから出てきた母さんがいて、驚いた顔をする。

「えっと、外にいてさ…あの、上げていいかな」
「ぜんぜん、良いわよ」

自分で上げると言っておいて、何を言ってるんだか。
自己嫌悪に陥りかけながらも、母さんは少しも苛立ちや嫌悪を見せることなく苗字を上げてくれた。
それに少しホッとする。
苗字は小さな声で「おじゃまします」と言った。
いつもよりずっとずっと小さな声で、か細かった。いまにも泣き出しそうだった。
部屋に誘って、ジュースを持ってきた母さんを階下に押しやる。

「お母さんと、喧嘩したの」

部屋で数分、ずっと黙り込んでいた苗字が先に口を開いた。

「あの日、私がお店に入って行ったのを見てたみたい」

あの日。新作のLBXを見に行った日。
苗字がLBXに興味を持っていた事は、彼女の母親にはバレバレだったらしい。
"一時の気の迷い"だと、腹をくくっていた。そのうち飽きるだろうって。
しかし違った。LBXを所有する友人ができてしまった。
実際に触れて、操作してみて。
楽しかった。本を読むよりも。
もう親の言いなりなんてイヤだ、
苗字は母親に問い詰められた時、思わず口走ってしまったらしい。
それが彼女の母親の逆鱗に触れた。

どうしよう。
そうつぶやく苗字に、オレは何も言えなかった。

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