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ドアの前に立って、ゆっくり深呼吸をする。
それでもノックをするために持ち上げた手を動かせなかった。
振り向けば階段がある、そこには誰もいない。
苗字を元気づけに行こう、そう提案したのはバンだった。
それに賛同する形でアミが「じゃあカズが行くべきよ」とオレの背中を押したのだ。
こうしていつまでも迷うな。いけオレ。

「苗字、起きてるか?」

ドアをノックして、そう呼びかけた。
反応はない。

「えっと、風邪って聞いたんだけど…」

そこで頭を振ってやめた。
オレ達は励ましに来たのだ。
風邪の心配をしにきたんじゃない。

「苗字、聞いたよ。えっと、どこまで知ってるのか分からないけど――」
「青島君…?」
「えっ?! あっ!!」

急に部屋の中から動く気配がしたかと思うと、ドアが開き苗字が顔をだした。
その顔がすごく近くて、おまけにパジャマで変な声が出て恥ずかしくなる。

「な、なんでいるの?」
「あー、えーっと、学校で苗字の母ちゃんに会って、それで…」
「え?! 変なこと言われなかった?!」

言われたでしょ。そう叫ぶ苗字に、思わず違うとオレも叫んで、すぐ後悔した。
眉尻をさげる苗字の顔。
彼女と話し始めてから何度もみた顔。
それで分かった事があった。
――苗字のこの顔は見たくない

「苗字さ、右肩に痣があるだろ。それLBXの暴走でついたんだ」
「えっ」
「だから苗字の母ちゃんは、」

なんで痣を知ってるの、と言いたげに固まる苗字に、思わずオレも尻すぼみになる。
だから。そこから言葉が続かない。
苗字の母ちゃんは、LBXの暴走に泣きじゃくる彼女を見て我慢ならなかったと言った。
自分たちの作っているものは、こうして他の親たちの心を痛めつけている。
なにより、現に自分の娘がこうして傷ついている。
苗字の母ちゃんは母ちゃんで、苗字が大事なんだって。
それをどう言葉にすればいいのか分からない。

「LBXの暴走でって、え? わ、私が?」
「ああ」

なぜここで自信ありげに頷けたのか、自分でも不思議だ。

「で、でも、私、LBXを直に見た記憶がぜんぜんない」
「苗字、LBXの操作すぐにできるようになっただろ? オレ、苗字が一度やったことがあるからだと思うんだ」

頭のモヤモヤした感じが、少しずつ消えていく感じがする。
でも苗字は余計に混乱していくばかりで、え、あ、と頭を抱えていた。

「なあ、苗字。明日、キタジマ模型店に行こうと思ってるんだ」
「え?」
「だから、母ちゃんと一緒に来いよ」
「む、むりだよ! そんなの!」
「苗字の母ちゃんとはもう話を着けてあるからっ」

苗字はさらに混乱して、うずくまって呻き始める。
そんな彼女を宥めながら、話が急すぎたと後悔した。

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