ちょこれえと

「あのソフトクリーム、なんで茶色いずらか?」

とある夏の日、どうしてもソフトクリームが食べたくなった。
そこで通りがかったお店がソフトクリームを扱っていて、ちょうどいいやと思って二人席に座った。
カウンター席でも良かったんだけど、女子高生が1人カウンター席というのは気が進まなかった。
定番の中の定番であるバニラではなくチョコレートにしたのも気分だ。
そういえば最近チョコ食べてないなと思って、バニラはなんだかいつでも食べれる気がして。
(普通に考えたらチョコの方がそこら辺で扱っているのに)

席について、いざ口にしようとしたとき、隣からそんな声が聞こえた。
どこか地方から来たのかな、という、訛りの強い声。
たしか、隣に座っていたのは私と同じ1人で座っていた少年だったはずだ。

子供が1人という場面はだいたい限られる。
地元の子供か、片親と出かけていてその親がトイレに立っている時。
でも、親がいるような形跡はなかった。
いるのは赤い半袖の少年で、その手には白いバニラのソフトクリームが握られている。
他には何も持っていないから、地元の少年とみた。

はて。
このあたりはそんな訛りを持っている地域だっただろうか。
いや、もしかしたら地方から引っ越してきてまだ日が浅いのかもしれない。
少年は目が合うと、あはは、と愛想笑いをとった。
私もそれに応えて微笑み返し、アイフォンに目を戻す。
それから内心さらに首を傾げた。

目が合ってからの少年の言葉には訛りが見受けられなかった。
そんなに訛りがでるほど、チョコレートのソフトクリームが物珍しかったのだろうか。
だけど同じくソフトクリームを買っているのだから、チョコレートがあるのは知っているはず。
首を捻った辺りでこんどは

「なんだかあっちの方が美味しそうずら」

さすがにそれには眉根をしかめた。
少年をちらりと見ると、かなり動揺している様子だ。
見ているうちにだんだん泣きそうな顔になって、お店から走り去ってしまった。

私はそれに呆気にとられていた。


 ***


とある冬の日、どうしてもチョコが食べたくなってコージーコーナーに入った。
どこでも食べれるようなチョコではなく、ちょっと洒落たチョコだ。
この時期になると、街を歩けばどこからともなくチョコの匂いがする。
バレンタイン間近になって、ついに我慢できなくなった次第だ。

「見たことねぇチョコばっかりずら」

会計を済ませた所で、訛りの強いぼやき声が聞こえた。
どこかで聞いたことある訛りだなぁ
そう思って声の方を振り向くと、チョコの並んでいるケースの前に、見慣れぬ白い動物が見えた。

いやマジで見たことない動物。
青い眉毛(らしきもの)をもった哺乳類がいて堪るか。
おまけに二本立ちして、なにやら風呂敷を持っている。

まじまじとその動物を見詰めていると、小学生らしき少年が店内に入ってきた。
あれ、どこかで見たことある子供だ。
そう思った矢先、

「あれ、コマさんじゃん。どうしたの、こんなところで?」
「甘い匂いすっから、入ってみたんずらよ。もんげーオシャレずらね〜」
「そういえばジバニャンもチョコがどうのって言ってたなぁ。ねえ、妖怪にもバレンタインはあるの?」

それに思わず三度見した。
目の合った店員さんは不思議そうな顔をして私を見ていて、どうやらあのコマさんとやらには気が付いていないようだ。
(確かにチェーン店が動物を店内に入れている時点で問題だ。)
存在自体に気付いていないみたいだし、言った方がいいのかもしれない。
いや、報告するまでもなく自分で追い出してしまった方が早いかもしれない。
だが、どうみてもその動物はただの動物ではない。
現に喋っているのだから。

するとこんどは赤い猫と宙に浮く白くてキモイものが現れる。
少年は相変わらず、なんでもないようにそれらと会話を始めた。
先ほど言っていたジバニャンというのはその猫らしい。
「本当にチョコ好きだねぇ」と笑っている。
ちょっと頭が痛くなってきた。

「あっ」
「どうしたんです、コマさん」
「こないだの女の子ずら」
「「「えっ」」」

いっせいに三対の目がこちらを向き、反射的に顔を逸らした。
視線を合わせたらまずい、頭がそう言ってる。
そんなまさか、と言っているキモイのを余所に、白い動物は続けた。

「本当ずらよ。さっきまでこっち見てたずら」
「いやでもコマさん、妖怪ウォッチ無しに我々の姿は…」
「でもオレッチのことが見える子がニャーKBに居るニャンよ、見えてても不思議じゃないニャン」

逃げよう。
そう思って駆け足でお店を去ろうとした直後、足が重く感じた。
気にせず人通りが少ないところまで来て見てみれば案の定、

「やっぱり見えてるずら!」
「おえ〜」
「なっ、なっ、なんじゃこれっ」

目を輝かせながらこちらを見る白い動物に、普通に追いかければ良かったとよろけている赤い猫。
なんじゃこりゃ、という言葉を飲み込んで固まっていると、先ほどの少年が息を切らしながら追い付いてくる。

「あっあの、妖怪が見えるんですか?」
「ヨーカイ? って、あの妖怪? ごめん私君がなに言うてんのかよう分からんのだけど」

妖怪は妖怪ずら! と叫ぶ白い動物。
カワイイと思ってしまったら負け、負けだ負け、そう言い聞かせる。
もしや今まで妖怪の類を見たことがない、そう尋ねられて、そうだとも、という風に頷いた。
それに視線を交わす1人と2匹、いまだ足に引っ付いている白い動物は、謎の期待の眼差しをこちらに向けている。

「とりあえず、お店入ろう」

それから説明して。そう言うと、少年は快く頷いてくれた。
コマさんとやらが、私から故郷の匂いがすると追っかけていたと知ったのは後の話。

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コマさんの訛りが岡山弁なのに正直驚いています


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