英国紳士

レイトン先生の部屋に入ると、真っ黒な髪の女性がいた。
ロンドンでは見ない服を着ていて、顔つきも肌の色も全然違う。
すぐに東洋人だって分かった。

「あら、こんにちわ」
「こ、こんにちわ!」
「噂をすれば、だね。こちらは助手のルーク、さっき話した……」
「あっ。動物と会話できるって言う? 可愛いわねー」

ニコリと笑う顔は、とても幼く見えた。
女の人は、名前苗字と名乗った。
やっぱり東洋の人らしい。

レイトン先生とは大学のある講義で席が隣になって、その時に同じ場所で同じ疑問を教授にぶつけたことがきっかけで知り合いになったとか。
名前さんが卒業して故郷に戻ったあとも、よく手紙を書いたりしていたようだ。
その頃、聞くに堪えないぐらいすごいカタコトだったらしいけど、今ではすごい流暢になったみたい。
少し訛りがあるだけで、聞いててもあまり違和感を感じなかった。

「故郷に戻って高校に無事卒業したって報告したら、すごい勇者扱いされたの。あんな英語でよく卒業できたなって。でも文通相手はできたわよって言ったら、こんどは嘘吐き呼ばわりされて挙げ句、馬鹿にされちゃって。笑っちゃうわ。……あ、紅茶もらえる? これ、すごく美味しい」

湯気が立つ紅茶はいい匂いがする。
いつも飲むようなやつじゃなくて、お客さんに出す格別な紅茶だ。
よく見れば、コップも薄くて柄もオシャレな高級品を使っている。
けれど―――

口にコップを付けると、「わっ」と言って唇を離した。
思ったより熱かったみたいで、唇を舐めて指で押さえた。
レイトン先生は心配そうに「熱いモノは嫌いだったかな」と声をかけるけど、名前さんは「大丈夫」とだけ言って音を立てて啜る。
それに思わず顔をしかめてしまうと、「あっごめんなさい、つい癖で……」と恥ずかしそうに顔を赤めらせた。
―――やっぱり、レイトン先生と同い年にしては少し幼い気がする。
いや、ぜったい30歳という方が嘘だ。

「名前さんは、どこの国の人なんですか?」
「日本から来てるのよ。これはその民族衣装。あまり気慣れてないから、動きにくいけど」

そういって袖を持ち上げる動作もやっぱり子供っぽいし、童顔で笑ったり考えたりする表情も30歳とは思えない。
30歳じゃないみたい、と言うと、「あら、ありがとう」と笑って返してくれた。

名前さんが着ている民族衣装は、それなりに価値があるものらしい。
金の糸が編み込まれてるみたいで、陽にかざすとキラキラと光った。
黒い生地に大輪のツバキが主張しすぎない程度に刷り込まれていて、たしかに高価そうだ。


「やだ、もうすぐ飛行機の時間」

時計を見ると、すでに七時を回っていた。
僕がここに来たのはまだ明るかったから、相当話し込んでいたみたいだ。

「その服で大丈夫かい?」
「んー、どこかで着替えようかしら」
「そんな荷物を持っているようには見えないけれど」
「買うに決まってるじゃない」
「まったく、君って人は……送ってくよ。ルーク、正面玄関まで案内しなさい」
「良いわよ。直接行くわ」
「僕が案内します!」

声を張り上げて言うと、名前さんはビックリしたみたいにこちらを見た。

「僕だって、英国少年です!」

 ---

これぞ「ヤマ無し・オチ無し・意味無し」。


表紙に戻る
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -