美ら海<うみんちゅ

沖縄へ越してきて二年。
美しい海は見飽きたが、サーフィンを楽しむ綱海は、何度見ても飽きない。
音村くんや喜屋武には「そう?」と返されたけれど。

「ねー、綱海ー」
「こんどはなんだよ」
「付き合って」
「良いぜ」

どこに行くんだ? と言って、呆れたように笑う。
黒く焼けた顔も相俟って、この表裏の無さそうな彼の笑顔を見ると、なぜかとても安心するのだ。

綱海は私のいる日陰の所まで来ると、私の肩に掛けてあったタオルを取って髪の毛を乾かし始める。
引っ越してくる前に友達からもらった、東京にしかない限定モノだったことは忘れておこう。
それを返してくると、海パンはまだ濡れているというのにズボンを履き始めた。
私には到底理解のできない事だったが、彼にしてみれば「そのうち乾くから別に良い」らしく、実際そうなのだからまあ良いかと、自己完結している。

「ほら、商店街に新しいお店できたじゃん。あそこに行こうと思って」
「あー、あそこな」
「地元の友達のおすすめのお店なんだ」
「ふうん。そうなのか」
「綱海には分かんないかもしれないけど」
「何が分かんないんだよ」
「だって、カワイイ系だし」
「俺にも分かるわ」
「ホント?」
「おう! ほら、これとか!」

そう言ってどこからか取り出してきたのは、シーサー。
いやさ。たしかに、お土産屋さんでもカワイイのが売られてるけどさ。
普通にそのあたりに飾られてるようなシーサーを取り出されても。

「なんだよ、その微妙な顔は!」
「いや、楽しそうで何よりだなーって」
「楽しくないわ、このフラーが」
「フラワー?」
「バカにしてんのか」
「そこは突っ込んでよ」

ワザと頬を膨らませて、一歩、綱海よりも先を歩く。
後ろでは「どこが悪いんだよ…」と文句を垂れているけれど、気にしない。


「名前はさぁ、やっぱ東京に帰りたいとかあるの?」
「えー? そりゃまあ……本音を言えば」
「そうか…」
「どうかしたの、綱海?」
「名前って、よく東京の話するじゃん」
「そう?」
「ここに来るのだって、東京の友達のおすすめだからなんだろ」
「うん。そりゃ」
「お前から見て沖縄男子ってどう思う」
「独断と偏見よ?」
「良いよ」
「バカっぽくてカワイイ。主に綱海」
「てめえふざけんなよ!」


「お前、去年の今頃、俺になんて言ったか覚えてるか?」
「? ごめん、いろいろありすぎて覚えてない」
「“付き合え”」
「あー、国際通りの時ね」
「お前、主語がねーんだもん」
「ごめんねー」
「本気にしたんだからな」
「ふーん」


「……え?」
「普通そう思うだろ。漫画じゃあるまいし」
「え?」
「俺だって男だ! 思春期だ! それなりに恋愛だってしてえよ!」
「う、うん」
「そこで都会から来たお前に、“付き合え”なんて言われたら、浮かれるだろ!」
「えっと、」
「それなのに、別れ際に“付き合ってくれてありがとう”とかさぁ…玉砕にもほどがある……」
「ご、ごめんなさい…、主語がなくとも伝わると思って……」

一年前、二人きりでも常にムードメーカーだった綱海が、なぜあんなにカチコチだったのかが分かって、なんだかとても申し訳ない気分になる。
そりゃそうだ、女同士の“付き合って”ならショッピングだが、相手は男なのだ。
カミングアウトされるまで、気が付かなかった。

なんて答えようか、「あー」とか「えー」とか呻く。

「とりあえず、保留にさせてくだサイ。」
「今言え! 今!」
「好きだよバカ!」


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