アスパラベーコン系?

※実在する選手&人物に関する捏造話が入っています

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「速水くん速水くん。来週の土曜日は暇かい?」
「は、はい」
「じゃあこれあげる」

ニコニコした笑顔で渡された白い封筒の中。
淡い色の模様が入っていて、シールも可愛いけど弱々しい、とても女の子らしい封筒。
そんな封筒に、胸がドキドキしてしまう。

苗字先輩は中々去らなくて、逆に「開けて開けて」と急かしてきて。
顔を見ても、何を考えているのか分からない。
新手の嫌がらせ? と不安になりながら封を開ける。

中身は手紙ではなく、チケットだった。
それも、来週末に開催されるイギリス戦の試合。

「これ……」
「イングランドの、あのブルックリン選手が来るんだって!」

イングランドのブルックリン。
心当たりが無くて、途惑っていると、「あのベッカム選手の!」と教えてくれた。

「あっ」
「そう! 本当は観に行きたかったんだけど、用事が入っちゃって……。だからあげる」
「でも……」
「もしかして、いらなかった?」

上目遣いにそう訊かれて、胸が鳴る。

「そ、その、良いんですか? 俺なんかに、こんな良いチケット」
「良いんだって。観に行かずに放置しておくより、サッカーの大好きな人が観に行った方が良いでしょ」

苗字先輩が一人でウンウンと頷いて、「それじゃ、詳しい事は中のメモに書いてあるから!」と早口に言って部室から出て行ってしまった。
ポカンとしていると、すれ違いに三国先輩と神童くんが入ってくる。

「あぁ、速水。早いな」
「ここんにちわ!」
「さっき、苗字先輩が慌てて出て来たけど、どうしたんだ?」
「え、えっと…」

 ***

「じゃあなんだ、何も言わずに二人分押し付けて来たわけか」
「うん…」

窓から入ってきたハエをホウキで追い出しながら、ベランダで「の」の字を書いている名前を見下ろす。
肩まで切った髪は、すでに違和感なくその頭に馴染んでいる。
美人で他人第一で、自分の事になると中々踏み込めない。
しかもそこに気が付いている人がほとんどいないと来た。
オレはそこに惚れたわけだが、完全に振られた今では呆れる他ない。

「アスパラベーコンにも程があるな」
「アスパラベーコン?」
「草に肉巻いてるだろ。肉食系に見せかけて草食系っつーことだよ、バァカ」
「バカってなによ。ていうか、え? 私ってそんなに肉食系に見えるの?」
「だってほら、いっつもトウヤといるし」「この前なんて、霧野くんイジリ倒してたじゃない」

両脇から出てきた抹茶頭の双子に「うお」と叫びながら体を引く。

「好きな子の前では恥ずかしくって本音も言えない。だってさー」
「せっかく下書きも書いてあげたのにさー。なに勝手にセリフ変えちゃってくれてるのさ」
「「アスパラベーコンにもほどがあるんですけどー」」
「うるさいなぁ! 二人は黙っててよ!」
「わー、怒ったー」「こわーい」

 ***

あれから一週間が経って、苗字先輩とは部活関連の話以外、特に会話をすることもなく。
チケットは二枚入っていて、きっと誰かを誘えということなのだろうけれど……。
苗字先輩を見ると、キャプテンと部活についての話をしている。
また何かやってしまったのか、叩かれて悪態を吐かれていた。

「苗字先輩、」
「ん、何?」
「チケットのことなんですけど……」
「あぁ、あれね。何か分からない事あった?」
「いえそうではなくて」
「?」
「かっ、帰り道で良いですかっ」
「一緒に帰るの? いいよー」

一週間前と変わらない笑顔。
思わずそれにドキドキしていると、キャプテンと目が合った。
じろりと睨まれて、思い出す。
そういえば、苗字先輩とキャプテンは付き合ってる、なんて噂があったような……。
苗字先輩は美人だし、キャプテンは男らしくてお似合いだと思ったのが本音だ。
二人とも、はっきりとは答えなかったけれど。

苗字先輩は「下駄箱で待ってて」と言って部室を出て行って、見届けたトコロを今度はキャプテンに捕まえられた。

「な、なんですか?」
「名前からチケットもらっただろ」
「っ……そ、それはですね、」
「オレ、フラれたから、別にどうも思わないからな」
「え?」

怒られる、と思っていた。
別の理由で遮られて、唖然とする。
キャプテンは「まあそれはそれで妬くんだけどよ」と言って頭を掻いていて。

「あいつ、土曜日空いてるぞ」
「…えっ?」
「強く誘えば乗ってくると思う。アスパラベーコンだから」
「……あ、あの!」
「いいからさっさと帰れ」

キャプテンが「あいつ待ってんだろ」と低く呟いて、ロッカーの所へ戻って行ってしまう。
それでハッとして、急いで着替えた。

 ***

「し、失礼します」
「あ、名前ちゃん。これ、ドリンク用の部費ね」
「はい!」
「……顔赤いけど、どうしたの?」
「な、なんでもないです……」


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