ロールキャベツ系?

 扉を静かに開いて、部室をぐるりと見回す。
 ベンチに座って、天井を見つめている少年が一人。
 廊下に目をやる。遠くから声はするけど、近づいてくる様子はない。
 ……よし、チャンスは今だけだ。

「つーるまーさくんっ」
「ひゃぁあ!」

 後ろから思い切りアタックして、ガラ空きだった脇に腕を突っ込んでお腹で縛ってやると、中一の時はあんなに女々しかった悲鳴が、ずいぶん声変わりして男っぽくなっていた。
いや、鶴正くんは男の子なんだから、男っぽくなってくれなきゃそれはそれで困るんだけど。

「あっはー、相変わらず弱いのね。これ」
「サキ先輩!? なんで先輩がここに、うわあ!」
「なんでって、ここ私の母校よ? 来ちゃいけない?」
「そ、そうですけど! は、離れてください!!」
「えー」

 ギブギブと腕を引っ張る手も、その力もずいぶん変わっていた。
 女子は大概、小六か中一で変化は終わってしまうけれど、一緒に変化が終わっていたと思っていた男子がドンドン大きくなって……なんて、よくある話だ。
まったく、あんなに可愛かったくせに男前になりやがって。心の中で悪態をつきながら手を放してあげると、そばにあった水筒を抱き寄せて遠ざかってしまった。

「え〜、ちょっと鶴正くん。そんな離れなくてもよくない?」
「サキ先輩が抱き着いてくるからでしょう?!」
「いやそれ、卒業する前からずっとそうだったじゃない。今更……」
「思春期ですよ、僕らは!」
「思春期って、前はなんだかんだ懐いてくれてたのに……」
「だから、もう! この歳で、男女で抱き合ってたら変ですよ!」
「え〜、変じゃないよ」
「変ですって!」

 変、か……。
 “思春期”って私も思う存分使わせてもらってるけど、使われる側はあまりいい気分しないな。

「ふうん、変なのか。この歳で抱き着きあうのは」
「そ、そうです、変ですよっ」
「そうかそうか」
「な、なんですか!」
「じゃあ、いくら先輩後輩でもさ、下の名前で呼ぶのはおかしいよね」
「え?」
「ごめんなさい、速見くん。監督に挨拶したらすぐ帰るつもりでいたので、こんな所で遊んでないですぐ帰りますね。さようなら」

 あからさまに他人行儀で手を振って背を向けた。
 鶴正くんはギョッとした顔で驚いていて、「えっ」「ちょっ」と詰まっている。
 ふん、ざまあみろ。
 ドアノブを握って少し開くと、後ろから「待ってください!!」と怒鳴られた。
 それがすぐ後ろから聞こえるもんだから、ビックリして振り向こうとしたら脇から何かが入ってきた。
 短く悲鳴を上げると、それはお腹で縛られて、背中が温かくなった。
 ぎこちなく顔だけ振り向くと、そこには鶴正くんの顔があって。温かいのは、鶴正くんが抱き着いてきていたからだ。

「へ、変じゃないです……」
「えっ」
「だから、変じゃないです!」
「えっ、何が」
「オ……オレたちが、抱き着きあうのは……変じゃないです……」
「どうしたの急に」
「だって……」

 モゴモゴとして、肩を顔を埋められる。

「サキ先輩、高校行ってから変わった気がして」
「変わった? 何が?」
「め、メールとか、前はいつもくれたのに、今はあんまりくれないし。オレから送った時も、なんか素っ気なくて……それで」

 うわぁ、なんだこの可愛い生物。目も少し潤んでるし、声も不安げで泣きそうだ。
 下品な考えだけど、食べちゃいたいなあとか。いかんいかん、けしからん。
 て い う か 、 恥ずかしい。
 私から抱き着くことはしょっちゅうだったけど、鶴正くんから抱き着かれたことなんて、一度もなかった。
 緊張して、「何が」って素っ気なく返事してしまう。これがいけないのは分かってるんだけど。

「それで! 先輩、高校で新しい彼氏作ったんじゃないかって。それで部活もあんまり集中できなくって……そうしたら急に来て! やっぱ先輩変わってて!」
「は、はやみ
「下の名前で呼んでください!」
「分かった、鶴正くん。」
「“くん”呼びもやめてください」
「うん、鶴正。えっと、私、鶴正以外に彼氏いないよ」
「でも今の流れ、別れる流れでしたよね」
「それは……」
「やっぱ別れましょう」

 全身の血液が、サッと足元まで落ちたような気がした。
 え、今、鶴正なんて言った?

「え、なんで」
「だって、オレたち……」
「嫌!」
「うっ」
「私、鶴正と別れるのは嫌! 絶対嫌! 鶴正以外、ありえないもん!」

 抱き着いて来た腕を振りほどいて、正面に向きなおした。
 鶴正は、すでに目から涙が零れ落ちそうだった。
 私もそれにつられて、鼻の奥がツンと痛くなった。

「私も鶴正と同じだったよ。私のいないトコで新しい子作ってるんじゃないかって。すごい不安だった。私は鶴正以外の男に興味ないけど、鶴正は違うんじゃないかって、それで」
「オレもサキ先輩以外、興味ないです!」
「でもっ」
「だからぁ!」
「、っ?!」

 今度は真正面から抱き着かれて、鶴正の匂いがする。温かい。

「オレ、先輩と同じ高校行くんで、待っててくれませんか」


「すっげー入りにくい……」
「最近しょっちゅう来てるかと思ってたら……」
「あの人、誰ですか?」
「あぁ、一年は知らないのか」
...
.....
...
「速水先輩の彼女!」
「美人ですね!」
「な、何やってるんですか!!」
「「げ、速水!」」



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