「帰れない」「お金は?」

「あ、名前! わっりー、傘忘れちゃってさー」
「……ハァ」

 いっつも、こう。
 毎朝ちゃんとニュース見てるのは知ってる。
 でも、天気予報見忘れたとか、傘持ってくるの忘れたとか、
 借りパクされたとか、穴が開いたとか、
 浜野はいろんな理由をこじつけて私の傘に入ってくる。

「で、今日は?」
「借りパクされちゃっ
「その手の傘は何?」
「かーちゃんの」
「どう見ても男物なんですけど」
「オレのかーちゃん、こういうの好きなんだよ」
「それ使えばいいじゃん。男物でしょ」
「それが、穴が開いちゃっ
「浜野はいったいどんな道を歩いてるの?」
「近所のジーちゃんが毎朝石投げてきてさー」
「それ通報レベルよね」
「っちゅーか、毎日それ聞いてて飽きない?」
「飽きない」

「ねえ、浜野。男ならさ、自分で傘持つよ〜とか言わない?」
「えー。だって俺、釣竿持ってるし」
「というより、なぜ私が浜野のプライベートに付き合わなきゃいけないのか不思議なんだけど」
「えーっ それ言っちゃう?」
「うん 言っちゃう」
「海士って呼んでくれたら教えたげる」

「…………」
「…………」

「……言った方が良い?」
「オレ的には言ってほしいなー、とか」
「…………なんで私が海士のプライベートに
「ハァ」
「なんで私が溜息吐かれなきゃいけないの」
「名前って、ほんっと現実主義なのな!」

 ぷいっとそっぽを向く浜野に、私はポカンとする。
 言っている意味が分からない。
 私は何のことだか分からず思考を張り巡らせるている。
 浜野は釣り糸を垂らしながらムードだ何だとうだうだ言っている。

 あー、そういえば、幼稚園の頃も同じこと言ってたっけな。
 下の名前で呼んでほしいの、どうの。
 そのとき、理由を聞いたら浜野はどう答えてたっけ。
 ああ、そうだ。

「ねえ、海士」
「なに?」
「私、バカだからさ。勘違いすると調子乗っちゃって、痛い目見るってことが良くあったんだよ。だから現実主義でいるんだけどね、別にイヤって意味で言ってるわけじゃないよ」

 浜野は釣り糸に集中してる。
 けどそれが“フリ”だっていうのは、
 幼馴染だからすぐわかる。

「海士は勘違いしてるかも知れないけどさ、私、海士のことスk
「ああああああああ!」
「な、なに?!」
「俺から言わせて! 俺から言わせて!」
「…………」

「    !」


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