Coffee+(Sugar*x+Milk*y)=?

「コーヒー貰えますか?」

最近、名前ちゃんを見てないね、としろくまさんがぼやいた日。
まるでテレパシーを受け取ったかのように、夕暮れ名前がしろくまカフェを訪れた。

「カフェラテ、じゃなくて?」
「はい。コーヒーです」

しかも、しろくまさんが"ついうっかり"コーヒーとミルクの割合を間違えただけで苦いだなんだと悲鳴を上げていたのに、ミルクもいらないと言う。

「名前ちゃんがコーヒーを頼むなんて、何かあったんですか?」
「そうなんですけど、なんというか、悩み? というか…」
「もしかして、恋煩い?」
「それとは違います」

カフェに来れば二言目にはパンダくんと言うのに、今日に限っては違った。
カウンター席に一人座って、じっ、となにかを考えている名前は、いつぞやの編集長のように難しい顔をしている。
時折辺りをねめつけては呻いて、最終的には身体を仰け反らせて叫んだあと

「しろくまさん!」
「なに?」
「私ってそんなに子供ですか?!!」
「ええっ」


数日前。
名前が通っている高校で、校外学習にパンダくんのいる動物園、もとい彼女がアルバイトとして働いている動物園に行くことになったという。
もちろん友人にも詳しい話はしていなかったし(ただしパンダくん以外に限る)、学校側もそんなこと知る由もない。
友人たちは「スパイだ〜」なんて囃し立てていたけれど、彼女たちは彼女たちで名前の心境なんて露知らず。
結局、半田さんにも相談せず、当日制服で動物園を訪れた。

そうすればどうだ。半田さんとは目が合ったにもかかわらず気付かれず、パンダくんには首を傾げられたもののスルーされ。
翌日、バイト出勤しても誰にもそれについて触れられないモノだから、掃除中にカミングアウトしたのだが。

「ああ、やっぱり。あれ、名前ちゃんだったんだね」
「え?! 名前ちゃんあそこにいたの?!!」
「僕気づかなかった〜」

と常勤パンダさん以外、誰一人として気付いていない事実が発覚した。
しかも、実際に制服をきて、校則通り髪を結んで「どうですか!」と再登場してみれば、パンダくんには「あぁ〜! いたいた〜!」と思い出してくれたのだけれども…

「なんか、制服だとちょっと子供っぽいね。名前ちゃん」

と半田さん。
それが名前の痛いところにクリティカルヒットしたわけだ。
たしかに自分の顔は童顔で、年相応の恰好をすると「背伸びをしてるのかしら」という反応をされることは自覚していた。
しかしそれを面向かって言われると、ギリギリ思春期の枠に収まっている年齢の名前には結構つらいのだ。

「たしかに、名前ちゃんの服って高校生にしてはちょっと大人っぽいですよね」
「そうなんです! 早く大人になりたい年頃なんです!」
「みんなそういう時期はあるよ。…はい、コーヒー」

淹れたての無糖コーヒー。
湯気が立つそれを見て、名前は一瞬ポカンとする。

「ああ、そうだ…。コーヒー頼んだんだった…」
「忘れてたんだね」
「名前ちゃん、大丈夫? 無理しなくていいのよ?」

まだ高校生、と言いかけて、大人でも飲めない人はいる、と慰める笹子さん。
コーヒーが出てきたことで幾分落ち着いたのか、それとも我に返ったのか、やっぱりミルクと砂糖ください、と素直に甘えた。

「で。私、子供っぽいですか?」
「…さあ?」

含みのある笑みを浮かべながら次の注文に移るしろくまさんに、苦虫をつぶしたような顔をする名前。
が、直後その顔は、ミルク少量と角砂糖一個しか入っていないコーヒーでとんでもない顔となった。

「子供を持ってる身としてはね。やっぱり大きくても小さくても変わらないから」
「…………」
「別に、名前ちゃんが子供とか言ってるわけじゃなくてね」
「で、でもほら、名前ちゃんって私服が大人っぽいから、制服だと全然イメージが違くて」
「でもボク、制服の名前ちゃん可愛いから好きだよ〜。名前ちゃんのお洋服、すごく地味なんだもん」
「パンダくん大好き! パンダくんは私の味方ね!」
「パンダくんと僕とのその差は何?!!」


「ところで名前ちゃん、半田さんのことどう思ってるんですか?」
「え? バイト先の先輩ですけど、なんでですか?」
「どうしてあそこまでムキになるのかなあって。半田さんに子供っぽいって言われて」
「…………」
「もしかして、半田さんが好きとか」
「それはないです。絶対ないです。」
「そこまで否定するのって
「そういう風潮よくないと思います!」
「でも、もし半田さんが好きって言うなら私応援しますよ?」
「しなくていいですから! まじで!」
「いまのすごく子供っぽい」
「しろくまさん、やっぱりそう思ってるんじゃないですかぁ!」

(やばい、これはやばい)
(このまま勘違いされたらやばい)
(せっかくの半田さんと笹子さんをくっ付けよう作戦が)
(というより私の立ち位置が)
(パンダくんにいろいろ言われちゃう)



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