I love you !

「パンダくんってかわいいよね」

コーヒーとケーキの良い香りが漂うカフェで、カフェモカを目前にした女子高生が言う。

「うん可愛いよね〜。この前、上野公園で赤ちゃん産まれたって聞いたし」
「そうそう。毛、真っ白だし」
「目みたいな黒い毛も可愛いし」
「そっちじゃなくて!」

こっちの話!と指さすのは、カフェモカのカップ。十分前には運ばれてきていたはずなのに中身は一向に減っておらず、ホットで頼んだはずなのに湯気は立ってすらない。それでも、スチールミルクで施されたラテアートの模様は変わらずパンダの顔をしている。今、このカフェでカフェモカを頼むとパンダ模様のラテアートをしてくれるのだ。

「もう、かわいすぎて飲めない!」
「そう……」
「分かるよ、その気持ち。そういうのって飲みにくい」
「でも飲むしかない!」
「「飲むんかい!!」」

冷めてぬるくなったカフェラテをごくごく飲み干すと、ふぅと息を吐く。

「これさぁ、パンダくんをモデルにしてるよねぜったい」
「そりゃパンダなんだからモデルにしなくてどうするの」
「だーかーらー!」

そっちの話じゃなーい!と叫ぶと、二人の冷たい視線と周りの訝しげな視線に刺されながら淡々と話始めた。

 * * *

「パンダくん、最近なにかあった?」
「そーお?」
「うん。だってここ最近、アルバイトの愚痴、言ってないじゃない」
「半田さんも言ってましたよ。最近、パンダくんがんばってるって」
「えへへー。それがねえ……」

それは数日前。常勤パンダさんの代わりにバイトに入った日である。
パンダ館へやって来た半田さんの後ろに、飼育員の制服を着た、初めてみる顔の少女がいるのに気が付いた。

「新人の名前ちゃん。高校生だけど、動物が大好きだからって」
「フン掃除でも便器洗いでもなんでもやります! よろしくお願いします!」
「名前ちゃん……」

その後、意気込んで掃除をする名前はタイヤに躓いたり笹で滑ったりと、災難が続いたという。ドジというやつである。
パンダくん以外の所でも似たような事を連発したらしく、バイトが終わる頃にはボロクソになっていたと同時に、初日にして『ドジっ子』というレッテルを貼られていた。


「それで?」
「それで帰り道ね、名前ちゃんと鉢合わせしたんだよ」


「あ、パンダくん……」
「名前ちゃん、お疲れ様〜」
「パンダくんも、お疲れ様です」

少し整えはしたらしいがボサボサの髪を抑えながら、疲れた顔をして笑った。私服は今時の高校生と違って少し地味だが、それでも似合うのは本人の容姿が地味だからか。

「パンダくんってどこら辺に住んでるんですか?」
「○○駅の近くだよ〜」
「○○駅……って、たしか、しろくまカフェが近くにあるところですよね?」
「うん。そのとなりにあるの」
「え!? あの竹林の!!?」

声を上げて驚く名前によると、彼女も○○駅をよく使用していて、巷で噂のしろくまカフェには前々から興味を抱いていたという。が、いざ通ってみようという勇気が無く、時折前を通り過ぎるだけで終わっていたらしい。

「あの、パンダくん、次、いつカフェに行きます?! 一緒にお茶しませんか!」

パンダくん以上に目を輝かせながらずいずい来る名前に、パンダくんも少したじたじしたという。

「パンダくんを押すとは、その子すごいね」
「そういえば」

ペンギンさんにコーヒーのおかわりを持ってきた笹子は、その話を聞いて何か思い出すように口を開いた。

「しろくまさん、ずいぶん前にカフェをじっと見てる女の子、いましたよね」
「ああ、そういえばいたね。そんな子」
「もしかして、その子かもしれませんね」

 カランコロン

「いらっしゃいませー」
「あ、あの……パンダくん、いますか……?」
「名前ちゃんだ〜」
「あっ、パンダくん!」

途惑いながら扉を開けた名前はパンダくんを見つけると、不安そうな顔からホっとした顔に一変させた。
いそいそとパンダくんの近くまで来ると、ぺこりと頭を下げる。

「えっと、動物園で飼育員のアルバイトをしている名前です」
「ちょうど名前ちゃんの話をしてたところなんだよ」
「えっ」
「ドジっ子名前ちゃん……」
「パンダくん、なに喋ったの!?」
「ウフフ〜」

ニヤニヤしているパンダくんに笹の大盛りを出して、あわあわしてる名前に水を差しだした。

「名前さんは何にしますか?」
「えっ、あー……カフェラテをお願いします」

数分後、名前の元に出されたカフェラテには見覚えのある笑みを浮かべた動物が描かれていた。

「パンダくんだ」
「今、サービスでラテアートをしているんですよ」
「かわいくて飲みにくいなー」
「あ、ボクってやっぱり可愛い?」
「うん。すっごくかわいい」

アハアハと嬉しそうにしているパンダくんとパンダくんのラテアートを眺めた後、名前はラテを少しずつ口に流し込んでいった。

 * * *

「へぇ。初めてのアルバイトが動物園」
「そこで出会ったパンダくんに一目惚れしたと」
「一目惚れじゃないよ。やること成すことが可愛すぎるから好きになったんだよ」
「どっちでもいいよ」

名前の言う“やること成すこと”を思い出したのか、パンダくんサイコー!と叫びながら机に突っ伏せた。
友人二人は、やれやれと溜息を吐いておかわりを注文した。


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