I never going back,

「おいニート。いい加減、ヒトんちを避暑地にすんのはやめろ」
「いいじゃん、名前は稼いでんだから」
「なんでこんな蒸し暑い日でもクーラー付けてないと思ってるの? 馬鹿なの?」

セミどもの喧噪にも耐え抜き、ようやく熱風が落ち着いてきたころ。
盆休みでも会社の出退勤と大して変わらない時間帯に活動しているのは、この真夏の暑さに起因している。
もともと実家が節約志向だったせいか、真夏のこの季節、たった一人でいる部屋で冷暖房を稼働させるのは少々心苦しいのだ。
まあ無理をするぐらいなら、暑い時間より涼しい時間帯に動いた方が賢明な気がするし。
(実のところ、帰ってからクーラーをつけるより一日中つけていた方が電気代がかからないという噂も聞いたけれど、本当なのかどうか怪しくて実行に移し切れていないのが本当だ)

それだけに、合鍵を見つけてきて勝手に他人の部屋に入り込み、ヒトんちのクーラーで勝手に涼んでいるのが許せない。
あと女である私の部屋にどうどう入り込んでその本人がいるのに「今日はどのAV見よう」なんて言っているのも気に食わない。

「あんさあ、親のすねかじりとニートはまだ100歩許せるとして…」
「あ、許しちゃうのそこ。だめだよー、そんなこと言ったら」
「話は最後まで聞け」
「ハイ」
「居住者になにも言わずに勝手に家に上り込んだ時点で住居侵入罪、居住権者である私が退去を命じているにも関わらず居座る不退去罪の二つで訴えられるんだけ、」
「え〜でも裁判になったら名前もお金かかっちゃうけどいいの?」
「原告が裁判を起こすのは民事、住居侵入は刑事事件で裁判を起こすのは警察だから、私が起こす必要はない」

強いていうなら裁判所に出向くための往復交通費千数百円が掛かるぐらいだな、と畳み掛ける。
一般的な常識をわきまえていれば、就職前にこうした「前歴」が付く行為は嫌がるのが普通だ。
が、このクズニートがそんな常識を弁えているとは到底思えないし、ニートを脱する気もないことは重々承知しているから「前歴」をひらつかせても意味がない。

「で、そういうわけだから、今ここで私が110番するか、今すぐあんたがここを出て行って金輪際この家に入って来るなと命じたいんだけど、どうする?」
「あー、この女優、アレの人かあ」
「人の話聞け!!」
「いってえ!!」

一人暮らしを始める際、野球をしていた兄が「これぐらい身に着けとけ」と言われていた金属バット。
いやどこの田舎だよ、普通に凶器所持で職質からの拘置所ゴーだよ。
そう毒づいてしまったが、こうして住居に居座られている以上使わざるを得ない。
警察に頭部の打撲痕がとか言われても「襲われそうだったから」と嘘を吐けばいい。
(実際、実の弟たちからもそう思われているのだし、本人が否定しても怪しまれることはないはずだ)

「なにすんだよ、これでも一度は結婚を約束した仲じゃんか〜」
「うるせえ、別れた以上もうただの知人友人なんだよ、面倒見切れるか」
「でたよ男言葉! この男女、やっぱ別れて正解だったわ!」
「お前には言われたかねーよ、このクソニート!!」

うるさいわよ苗字さんという幻聴を聞きながら、トレードマークの赤い松を狙い撃ちする。
が、どこにそんな体力があるのか、ビュンビュン仰け反りながら避けられて、まるでゴキブリか蠅だなと思う。
ほんと、ゴキブリか蠅なら良かったんだけど。
ていうか、なってくれないかなあ。

(後日、末松から「またウチの長男がごめんねー」という謝罪の電話を貰った)
(貰ったものの、その後ろから「えっ名前に電話してんの?変わって!」という声が聞こえてきて速攻切った)
(どうせ六つ子に手ぇ出すんだったら、トド松かチョロ松あたりにしておくべきだったかなあ)
(もうほんと縁切りたい、長男だけでもいいから…)


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