あなたのことが
「私、仙蔵って結構タイプだったんだよね」
「そうか」
私は行儀見習いとして、彼は忍者の卵として学園の門を潜り、四年間、一緒にいた。
もちろん長屋も授業も日常生活のほとんどを別にしていたから、何から何まで一緒というわけではなかったけれど。
女子たちと仲違いしているわけではない、他の忍たまたちと交流していないわけではない。
それでもとりわけ仙蔵とはよく会話や行動をして、気が合うのかな、と。
門を潜って四年目、くノ一の夢をやめて実家に帰る選択をした。
行儀見習いとしての授業とは別に受けていた、くノ一になるための授業。
その授業を受けて、漠然とした不安を抱いてしまった。
それでくノ一になれるのか、そう思ってしまった。
そう相談したとき、仙蔵は数回瞬きをして、「選ぶのは名前だ」と言った。
私は「そうだよね」と返して、翌日、学園側に正式に届け出を出した。
またそれを報告すれば、最後だから送ろう、と言ってくれたのだ。
「ずいぶんあっさりね」
「お前に言われてもな」
「あっ、そうか。仙蔵は言われ慣れてるのか」
なるほど、という風にそう言えば、若干顔を歪める。
いつもならここで小突かれる所だけど、私はすでに門を潜っていた。
一歩でも外に出ようものなら、事務員の格好の餌食だ。
「お前の虚言癖には、散々悩まされたからな」
「そうだっけ?」
「お前なあ」
とぼけ気味に返せばさらに歪められる。
その顔が面白おかしくて。
私の嘘はほとんど仙蔵相手だ。
もちろん彼の評価に関係する場面で虚言を使わないのが鉄則だったけれど。
実習や任務以外では、彼の私に対する信用は皆無に等しい。
それを分かっていての、先の言葉だ。
仙蔵は、すでに瑠璃色の袖を通していた。
本当に忍者になりたいんだなあ、って。
「そういえば、疑わないのね。くのたま辞めること」
「先生方に伺った」
「なるほど」
先生に直接聞かれてしまっては騙しようがない。
面白くないなあと思う。
仕方ないけれど。
「じゃあ、また会う機会があれば」
「そうだな。また会えば」
本当は、言いたくなかったんだけどな。
背を向けてしばらくすれば、戸の閉まる音がする。
振り返れば誰もいない門前。
大層な送り迎えは期待していなかった。
仙蔵だって、今まで親しくしていたからであって。
"おまえに言われてもな"
思い切った告白も、あっさり言いのけられてしまった。
いや、そう言いのけられても仕方がない。
全ては、私の虚言癖のせい。
視界がぼやけそうになって、上を向きながら「仙蔵のバーカ!」と叫んだ。
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