夜廻さん

今になって気付いたことがあります。

夜になると、幽霊をたくさん見ます。
どうして彼らがこの世に留まっているのかは知りません。
ただ、そういうものだと認識していました。
包帯を巻いた幽霊や紙を雑に丸めたような幽霊がそばにいるときは、音を立てないように。
黒い影に出くわしたら、問答無用で逃げること。
夜、どうしても外出しなければならないとき、まず守ることはそれです。
どうしてか、なんて考えません。

それにしても多いな、と不気味に思ったのは最近です。
女性が崖から突き落とされたり、子どもの誘拐事件が多発したり、嫌な噂も。
もしかしたら、ここには嫌なモノが溜まっているのかもしれません。
町の北東にあるトンネルの先には、神社があると噂に聞き、いちど足を運びました。
けれど、神社を見つけることはできませんでした。
あんぐりと口をあけているトンネルに、足が竦んでしまったからです。


初めて彼らの存在に気付いたのは、妹ぐらいのときでした。
どうしてもジュースが飲みたくて、お母さんたちの目を盗んで、すぐ近くにある自動販売機に行ったのです。
そのときでした。
飼い犬にはちゃんと躾をするように、という張り紙が貼られた掲示板。
スラリとした白い足が、見えました。
だれかが掲示板の裏にいるのだろうと思って素通りして、私は、凍りつきました。

だって掲示板のすぐ裏は壁なのです。
それに、まだ夜は寒い季節だったのに、それは素足だったのです。
大急ぎで家に駆けこんだ私は、お母さんに泣きつきました。
けれど、「こんな時間に外に出るからよ」と軽くあしらわれただけでした。

やがて妹が生まれました。
妹は私が守らなきゃ、そう思いました。
夜の町にはよまわりさんもいます。
出遭えば廃工場へ連れて行かれてしまい、帰られなければ、どうなるか。

口を真一文字に結び、こちらをじっと見つめる影
どちらかが見上げることも、見下ろすこともありません。
同じ目線で、同じぐらい不安そうで。
でも、もう私にはどうしてあげることもできません。
そうならないように、妹だけは。


妹が千切れた首輪を引きずって帰って来たとき、私は後悔しました。
いつもは私がしていた散歩を、どうしてもしたいという妹のわがままを許してしまったこと
トンネルの近くで、と溢したとき、気づくべきだったのかもしれません。
妹はまだ七歳です。
都合がよかったのでしょう。

私を支えてくれていた妹は、とても立派に見えました。
でも、その左目はもうありません。
痛みに顔を歪めた妹の顔
どろりと頬を伝った赤
あの光景は、絶対に忘れられない。

私は後悔していました。
どうして妹に、夜の徘徊を許してしまったんだろうと。
でも、もう心配することはないと思います。
妹は、もう、


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