欲張り
「さっき、阿部君と、何話してたの?」
「え?」
部活でクタクタになった帰り道。廉は急にそんなことを聞いてきた。
たしか、部活が終わって、百枝監督に明日から新しく始めるトレーニング表をもらって、シガポに長ったらしいトレーニング論を聞かされ。それで……
「ああ、さっきの」
今回の阿部のトレーニングは、他の部員と違って酷だった。ここ連日、最後まで残って練習する姿が見えてたものだから、今日からは無理しないで帰った方が良いよ、と声をかけただけ。ちなみにサプリメントも。
「体壊すなって忠告よ。それだけ」
「本当に?」
本当にって、何が?
純粋にそう思って聞き返そうとして、飲み込んだ。だってその問いの答えは、恋をする者なら誰でも持つ感情だから。
「ヤキモチ妬いてるんでしょ。阿部と仲良くしてるから」
「え、ち、ちがう、よ……」
「へぇ、じゃあ阿部ともっと仲良くしようかな」
「ダメ!」
こういう時だけ即答する廉は可愛いと思う。
口に出して言いたいけど、言うと顔を真っ赤にする。そんな廉も可愛いんだけど、ずっとこれを続けてたらいつかその顔が見れなくなるんじゃないかって思って、どうしようもなくなっちゃうから。いやいや、言わずに慣れちゃったら一生見れなくなっちゃうじゃないか、とも思うけど。
「大丈夫、安心して。私は廉の隣からどこにも行かないから」
握ってた手に指を絡めると、廉は「うん」って言いながら、指を絡み返してくれた。
‐ ‐ ‐
夢主が阿部にあげたサプリメントは睡眠薬だったりする。
翌日、薬のせいで朝寝坊して遅刻した阿部に怒鳴られるのは別の話。
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