飛んで火に入る夏の虫

私だ、オートボットのラチェットだ
どうしたというのだ人間たちよ

暗く不鮮明な映像の中、船から橙色の火が上る。
そこから緑色の装甲を持ったトランスフォーマーが現れた。
かと思うとそれは"救急車"に変形し、逃げるように走っていく。
だがその先にも討伐隊はいる。
集中砲火を受けて、横転したそれの顔を映した映像には、二対の青があった。

それに、冷たいものが胸を滑る。
オートボットのラチェット
蒼いアイセンサを持ち、救急車にトランスフォームする、緑色の装甲を持った医者だ。
サヴォイには彼はディセプティコンに寝返ったと聞かされている。
その経緯は知らされていない。
ただ、彼を見つけたから同伴してほしいと。
トランスフォーマーの遺体を回収し、分解していくのが私の主な仕事だった。
今回は希少な医者だ、人造TFを作るのにその頭の"中身"を調べたいのだろう。
できるだけ傷の少ないままに分解し、さらにトランスフォーミウムを溶かして必要な部分だけを残す。
地球上に存在する生命体と違い、彼らはデータとして記憶を保有しているのだ。
そういうデータを専門に扱っている私たちにしてみれば、これ以上嬉しいことはなかった。

動悸を宥めるように深呼吸をしながらも、手の震えを抑えながら工具を運び、ラチェットの最期を届けるイヤホンに耳を傾ける。
心臓は痛いぐらいに血液を循環させている。
頭は感受器から送られる情報を理解しようと熱くなっている。
手足は震えていて、歯もわずかに噛みあわなかった。
落ち着け、と自分を言い聞かせる。
厄を呼ぶトランスフォーマーは、もう地球にはいらない
工具を握りしめて、自分に言い聞かせるように深呼吸をする。

オプティマスプライムはどこだ

イヤホンからイギリス訛りの声が入る。
オートボットのボス。"プライム"を継いだ者。
彼のことはよく聞いているから知っている。
師がオートボットを裏切り、シカゴの惨劇を引き起こした。
ディセップのボスで地球の乗っ取りを企てたのはかつての旧友。
その二人を彼自身が殺したことで、惨劇に幕を閉じさせた。

人類はそれで悟ったのだ。
地球の未来を他星の者に任せてはいけない。
このままでは第二、第三のディセプティコンが――地球を滅ぼす者が現れる。

「準備はできてるか」
「ええ。もちろん」

でなければここにきていない
その言葉を飲み込み、横たわってもなお人類を見下ろせる巨体に目を向ける。
その左足はすでに失われているにも関わらず、それがまだ致命的な傷でないことは明らかだ。
人類とは、何もかもが違う。

その様を見下ろす賞金狩りに、彼は答えた。

≪誰が言うものか≫

最後の言葉に、私は感情を殺した。


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