目が覚めるまで

ミサさんよりリクエスト
しろくまさんに片想いをしている女の子
しろくまさんがちょっとゲスいです


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ぼくのカフェに初めてやって来て、女の子はその大きな目を白黒させていた。
お客さんが常連さんばかりで、動物がカフェのオーナーを営んでいるのが普通に感じてしまっていた。
けれどその女の子の反応をみて、やっぱりすこし風変わりなカフェなんだな、と再認識した。
パンダくんとおなじ動物園でアルバイトをしていて、パンダくんと会う約束をしてここにきた、という。
カフェの隣にパンダくんの家があるんだよ、と教えてあげると、また驚いた顔をして、パンダくんらしい、と笑った。
結局、パンダくんがカフェにやって来たのはその一時間後だったが、その女の子はとくに気にしていない様子だった。
パンダくんは女の子を"名前ちゃん"と呼んでいて、会話から、いまは受験生で、都内の有名な大学を志望していると知った。

名前ちゃんは、それからもよく来るようになった。
パンダくんとの約束がなくても、ぼくのカフェモカが飲みたいから、と言って。
常連さんができるのは嬉しいことだ。
これもなにかの縁、ペンギンさんはそう言ってよく名前ちゃんに絡んでいた。
まるで居酒屋のよっぱらったおじさんだね、と言うと、ボクそんなに鬱陶しいかな、と若干落ち込んだ声でそう言った。
名前ちゃんは、そんなことない、と言いながらケラケラ笑った。
居酒屋に行くことはあるの、と尋ねると、行った事はないけれど興味はある、と言った。
けれどすぐにハッとして、でもボクのカフェの方がいい、ここが一番だと訂正した。
ありがとうと伝えると、すごく嬉しそうな顔をして、カフェモカを飲んだ。

暗くなると寒くなってきて、笹子さんが厚着をしてくるようになった頃。
名前ちゃんが、私の良い所ってどこですかね、とカフェモカを飲みながら言った。
若干緊張したような声で、どうしたのか聞くと、もうすぐ大学受験が始まって、二週間後に面接があるのだと言う。
でも、どうしても自分の長点が分からない、と言う。
ぼくは正直に、名前ちゃんは約束を破られてもめったに怒らなくて、いつも笑顔、表情豊か、笑うとカワイイ、と伝えた。
顔を真っ赤にして机に伏せた名前ちゃんは、さすがにそこまで言われると恥ずかしい、自分では言えない、と震えながら言った。
本当のことなのに、とぼくは残念だった。

それからしばらく、名前ちゃんがカフェに現れることはなかった。
もともと欠勤しがちだった動物園のバイトも辞めてしまったらしく、パンダくんがしょんぼりとしていた。
きっと受験で忙しいんだよ、一段落したら、きっとまた会えるよ。
笹子さんがそう慰めて、ぼくも、受験が成功するといいね、と声に出した。
名前ちゃんがカフェにやって来たのは、それから一年後だった。
ちょっと気まずそうにドアを開ける彼女に、いらっしゃい、一年ぶりだね、と声をかけると、パッと嬉しそうな顔をした。
覚えててくれてよかった、と言う名前ちゃんに、忘れないよ、と返す。

結局、名前ちゃんは面接受験に失敗して、センターで挑んだのだと言う。
けれどもともと学力があったわけじゃなくて、有名大学だっただけに受験者数も多く、そのまま浪人してしまった。
そうして一年、ぼくのカフェに来るのも我慢して、ずっと勉強していた。
今年のセンターはすでに終わって、いま結果待ちなのだと。
実のところ、その結果が届くのが今日で、怖くて思わずここまで来てしまった。
横で静かに聞いていたペンギンさんは、ならいっちょ居酒屋に行っちゃう? と誘った。
名前ちゃんは、行きません、とニコヤカに断ったあと、お腹が空いたから、と裏メニューのピザを頼んでくれた。
今日は特別と豪勢に作ってあげると驚く名前ちゃんに、一年前と変わってなくて安心した。

翌日。
カフェは定休日だったけれど、すっかりそれを忘れてしまっていたらしい名前ちゃんは、これ以上ないぐらいに嬉しそうな顔でやってきた。
そして、定休日だったことを思い出し右往左往する彼女をカフェに招き入れると、第一声に、合格しました! と叫んだ。
良かったね、と微笑んであげると、名前ちゃんは緊張が抜けたように椅子に座り込んでしまう。
特別にカフェモカを作ってあげれば猶更喜んで、有頂天になっている彼女の頭をポンポンと優しく叩いた。
私、しろくまさんが大好き。そう微笑む名前ちゃんに、知ってたよと心の中で応えた。
ぼくも名前ちゃんが笑ってて嬉しいよ、と告げて、洗い物に目を移した。
ちらりと見える顔は、笑っているけど、すこし悲しそうだった。
好きな人はいるの、と尋ねると、少し間があってから、いる、と返ってきた。
応援するよ、と声をかけると、ありがとうございます、と名前ちゃんは呟いた。

きみの目が覚めるよう願って



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