リボーン複数主番外編 | ナノ


▼ 精神世界で初めて会う話

そよそよと柔らかな風が揺らす草が頬を擽る感覚で目が覚める。見えるのは綺麗な澄み渡った青空と、春を思い起こさせるような輪郭がぼんやりとした白い雲。太陽は見えないが、やけにはっきりと見える景色にきっと晴れているのだろうということが分かる。夏のような暑さは感じられず、時折吹く風が心地よい。
はて、自分はいつの間にこんなところに来ていたのだろうか。疑問に思い、思い出せるだけの記憶を手繰りよせる。
確か、先程まで自分は下校中で、何故か商店街の方に行って、そこからバスに乗って、隣町まで行って、と一つ一つ確認していき、辿りついた1つの結論にフッと心が軽くなる。

「あぁ、夢か…」

呟いて、起き上がる。
どうやら自分は広い湖の近くに寝ていたようで、目の前に広がる水面に癒されるような心地になる。後ろには巨木が1本立っており、木の葉が風で揺れてさわさわと音を立てている。
普段住宅街や学校、商店街といった、ビルとまではいかずともそういった建造物ばかり見ていたせいか、体は無意識に大自然を求めていたのだろう。夢は時折自分の願望も表すとも言うから、これは自分の望んだ風景なのだと由良は1人納得し、心穏やかな状態で清々しい気持ちも抱きながら大きく伸びをした。
と、後ろの方からカサリ、と風ではなく歩いて草を踏みしめた時のような音がした。

「おや?」
「!六道、骸…!?」

振り向けば、あの時の怪我が嘘だったかのように傷ひとつないピンピンした状態の骸が驚いたように目を見開いて立っていた。骸の姿を見てすぐに警戒した由良だが、すぐにこれは夢だと思い直し、同時に夢でも骸に会いたいと無意識に願ってしまった自分がいることに気づき顔を顰めた。
骸は気づいているはずなのにクフフ、とあの特徴的な笑い声を零し、お久しぶりですね、と声をかけた。
が、これは夢だと思っている由良は無視を決め込み、骸から距離を取った場所に座った。そんな彼女に骸はつれないですねぇ、と一言言って、同じように座った。
距離があるとは言え消えない骸に何故、と思いながらも気にしないように目の前に広がる景色を楽しむことにした。

「それにしても、君がいるとは驚きました。散歩をしていてよかったですよ。」
「………………。」

夢のはずなのに、何故か自分の思う通りに動かない骸は、無視する由良にめげることなく話しかけてくる。始めは気が散ると思って反応しなかった由良だが、あまりにも話しかけてくるのでさすがに可哀想かと思いチラリと横目で見て、固まった。

「何その顔…」
「ようやく反応したと思えば失礼な人ですね。」

骸は悲しそうな、嬉しそうな、よく分からない感情を混ぜ込んだような歪んだ笑みを浮かべていて、夢のはずなのに、嫌にリアルな表情につい反応してしまった。
骸の返しは刺があるような言葉だが、その表情はホッとしたようなもので、私は骸に何をさせたいのだろうか、と無意識で見る夢のこの状況に由良は頭を抱えた。そんな由良に骸は何してるんですか、と純粋な疑問を投げかけてきて、あまりの純粋さに記憶にある極悪非道な骸とのギャップが酷く、混乱した由良は自分の中で葛藤していると訳の分からないことを言った。

「私夢で骸にどうさせたいんだろう…」
「は?夢?」

ポツリと呟いた言葉に反応した骸にあれ?と首を傾げた由良は、恐る恐る夢じゃないの?と問う。暫し考え込んでいた骸はああ、と合点がいったように頷いた。

「僕は夢ではありませんよ。正真正銘、本物の六道骸です。」

今は精神だけの状態ですがね、と付け足した骸の言葉に絶句する。
つまり、どういうことだろうか。
骸の言い方から考えると、今の今まで由良が夢だと思っていた骸は精神だけとはいえ骸本人であり、自身が望んで生み出したものではないらしい。では骸と話す自分はなんなのか、この世界はなんなのか、理解が追いつかない。

「ここも、夢じゃないってこと?」
「ここは分かりやすく言えば、精神世界。貴女の精神が形成する貴女だけの世界ということです。」
「私、だけの…」

骸の説明を理解するために聞いて印象強かった言葉を繰り返し口にして考え込む由良。骸はそんな彼女を面白いとでも言うような表情で見つめていた。
暫くして理解出来たのか、顔を上げた由良はちょっと待って、と声をあげる。

「私だけの世界ならアンタがいるのはおかしくない?」
「僕は特殊なので、こうして世界に干渉できるんですよ。ここも、散歩をしていたらたまたま見つけたので寄ってみただけです。」
「散歩?」
「ええ。」
「よくするの?」
「まあそうですね。」

聞いた由良はぐしゃりと顔を歪めて冷めた目で趣味悪、と呟いた。骸は気にしていないようでなんとでも、と返す。

「ていうか、干渉できるんだったら帰れるんでしょ?だったらさっさと出てって。」
「それはイヤです。ここ落ち着くので。」
「は?」

ビキリ、と由良の額に青筋が浮かぶ。対する骸はそれそれは清々しい程爽やかな笑顔を浮かべていて、余計に由良を腹立たせた。

「折角ですし、少し話しませんか?」
「結構です。とっととお帰りください。」
「君には色々と聞きたいことがありまして。」
「聞けよ人の話。」

心做しかワクワクしたように提案する骸をバッサリ切ったにもかかわらず、なおも話し続ける様に信じられない目で見るが、全く通用しない。
コイツの精神は鋼で出来ているのか。そう思った由良は嘆息し、骸から来る質問や話題を尽く無視していった。
なんなら絶対反応しないという意思表示をするかのように目を閉じ、耳も塞いだ。
さすがの骸も黙るだろうし、帰るだろうと考えた由良だが、それは甘かった。

「い゛っ……って近い近い近い!!」
「ああ、やっと反応してくれましたね。」

酷いじゃないですか。悲しげな声で言う骸はだがしかし、耳を塞いでいた由良の腕を折るのではと疑うくらいの強い力で掴み、痛みで咄嗟に目を開けた由良の至近距離まで顔を近づけていた。
ツナと一緒に戦っていた時とはまた違った恐ろしさを感じた由良は分かった!分かったから!と叫んで骸と会話することに同意し、骸は嬉しそうにクフフ、と笑って元の位置に座り直した。

**********
途中まで同じだと思います。途中で変えたので。
この話で一番これは違うとなったのが最後の絡みの部分で、原作の骸さん考えたらこんなスキンシップみたいなことしないよな、と思ってボツにしました。出来るだけ原作のちょっと冷たい部分というか、少し残酷で非道な部分も出したかったので、これはフランクすぎるとなって変えました。
ただここまで書いたのでこうして残してました。ようやく出せて満足してます。
一応書きたかった部分は本編の方でも書いてるので、流れとか言動とか多少の違いはあっても結構似てるやりとりしてます。散歩のくだりとか、話そうとするところとかは本編でも書きたくて書いた部分ですね。
あ、もうひとつ、この話だと霧主が結構子供っぽく見えてもう少し落ち着かせたいと思って書き直したのもありました。あんまり変わってないかもしれませんが。(笑)

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