番外編


ある日食堂でお勉強をしていると、食器を洗っていたテレンスさんと目があった。

「ユウリ、少し髪が伸びてきましたね」
「んー?言われて見ればそうッスねー。切るッスか?」
「いえいえ、伸ばしましょう。ですが、そうですね…」

ふむ。と考え出したテレンスさんに首を傾げる。まあ、こういう時は新しい服か何か考えているんだろう。と考えて、勉強を続ける。しばらくして、一区切りついたところで、またテレンスさんと目があった。

「ユウリ」
「どうしたんスか?」
「お願いがあるんですが」
「いくらでも聞くッスよ!」
「ありがとうございます。髪を触ってもよろしいですか?」
「はい?はあ。……ん?」

嫌な予感がする。テレンスさんの目が輝いている。

「そろそろ色々アレンジできそうな長さですよね?」
「はあ」
「まとめてみたりしても、よろしいですね?」
「イ……」
「イ?」
「イ……エス」
「では!始めましょう」

嫌な予感はしていても、展開は読めていても、それでも自分にテレンスさんのお願いを断れるような強い精神は宿っていないのだ。
そして、長ーーーーい1日が始まる。

最初は、この髪型は○○って名前で〜こうやってああやってそうするとできるんですよ〜。それからこの髪型は〜、とベラベラと唱えられるテレンスさんの呪文を聞いていたが、段々テレンスさんが自分の世界に入り込んでいってしまうにつれて、静かになっていった。こういう時に邪魔してしまうとマズいので、お互い無言であれやこれやと結んでは解き、解かれを繰り返しているところに、ミドラー姉さんがやってきた。

「あら、楽しそうねユウリ。お土産持ってきたわよ」
「ありがとッスミドラー姉さん。食べてもいいッスか?」
「もちろんよ」

抜けていた魂が戻ってくるような感覚を味わいつつ、何かなー何かなーと、渡された袋を開けると虹色のペロペロキャンディが出てきた。包装紙を破り、口に含む。

「んまーい。あまーい」
「そりゃよかったわ。ところであんた完全にテレンスの人形扱いだけどいいの?」
「構わないッス。今のところは」
「じゃああたしも参加していい?」
「そうくるんスね」
「そうきちゃうわよ」
「いいッスけど、楽しいんスか?」
「楽しいわよー。テレンスだってずっと無言じゃあないの。自分のと違って人の髪っていじりやすいのよ」

そう言いながら、ミドラー姉さんまで髪に手を伸ばし始めた。また魂が抜けていくような感覚がしたが、今まで一心不乱に髪を結っていたテレンスさんと、ああでもないこうでもないとモメながらも楽しそうにしているのを見て、仕方がないと諦めた。
まだまだこの遊びは終わりそうにない。

ミドラー姉さんから貰った大きなペロペロキャンディがなくなるころ、マライア姉さんがやってきて、こちらを見て綺麗な顔をしかめた。勿体ない。

「あんた達何やってんの?ユウリの目、死んでるわよ」
「おやマライア、あなたも来たんですか。今少しユウリの髪で色々させてもらっていて……ああ、勿論ユウリの許可はもらっていますよ?」
「そういう問題じゃあないわよ。いつからやってるわけ?」
「昼食後からですかね?」
「もう日が沈んでるわよ!?ユウリ!ちょっと!大丈夫!?」
「ああ、マライア姉さん…………大丈夫ッスよ」
「それ大丈夫って言わないのよ!もっと子供らしくしても良いんだから、我が儘言いなさい!嫌なら嫌って言わないと大損するわよ!」
「う、うりぃ……ごめんなさい?」

マライア姉さんの勢いに圧倒されて、謝る。その後ぐうぅーとお腹がなった。

「…………テレンス。夕飯の準備は?」
「あ……」
「ミドラー、あんたが来たときからこうだったのよね」
「え、えぇ。そうよ」
「あ!あ、あの、マライア姉さん。テレンスさんもミドラー姉さんも悪くないんスよ。ちょっと楽しみ過ぎたんスよ!」

マライア姉さんの背後にゴゴゴゴゴゴゴ、という何かが見える気がして、慌てて庇う。テレンスさんの顔色が悪い。ミドラー姉さんもマズい、という顔をしている。

「テレンス」
「はい」
「言わなくても分かってるでしょ。ユウリに庇われて恥ずかしくないの?次こんなことがあったら私が面倒見るわよ」
「分かりました。ユウリ、すみません。つい夢中になってしまって」
「私もよ、ユウリ、ごめんなさい」
「いやいや、良いんスよ。気にしないで下さいッス」

謝る2人にブンブンと両手と首を振って答えると、真剣な顔をしたマライア姉さんに両肩を掴まれた。

「ユウリ。良い?あんたはこんな世界にいるんだから、意思表示をハッキリできないと命に関わるのよ。一食食べ損なうぐらいじゃあすまなくなるの。仲間でもスタンドを教えないように、気を許しすぎちゃあいけないの。分かった?」
「はいッス。ありがとう。大丈夫ッスよ」

マライア姉さんが自分のことをよく考えてくれているのがよく分かったから、嬉しくて頬が緩む。えへへー。と笑っていると、マライア姉さんも笑って、頭を撫でてくれた。

「ユウリ、お詫びに今日の夕食は少し遅くなってしまいますが好きなものを作りますよ。何が良いですか?」
「え!?え、えーと、じゃあ、じゃあーオムライス!卵たーーっぷりで!」
「はい。かしこまりました」

きっちりお辞儀をしてキッチンへと向かったテレンスさんを見届けると、正面に座ったマライア姉さんが少し不満そうな顔をしていた。

「どうしたんスか?」
「もっと良いもの頼んでも良かったんじゃあないの?」
「オムライスで良いんスよー。皆で食べられるだけで嬉しいんス」

そう言って笑うと、本当のことを言っただけなのに、何故か悲しそうな顔をした2人に頭を撫でられた。

「今度から暇がある時には来るようにするわね」
「私もまた飴持ってくるわ」
「??あ、ありがとッス」

よく分からないがまあ良いか。一件落着だ。

その後皆で食べたオムライスは今までで一番美味しかった。

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