エルザ | ナノ


▼ 23

「おめでとう!」
「なんかホントお前のこと嫌いになりそう」

エルザとディオが婚約することになったらしい。急すぎて思わず父さんの部屋に向かおうとしていたところを引き止めて、2人の顔を交互に見比べてしまった。前に恋人ごっこをしていたときはエルザが心配だったけど、2人の様子を見る限り大丈夫そうだ。だからおめでとうと言ったのに、残念ながら嫌がられてしまったようだ。申し訳なくて眉が下がるのが分かる。

「あのなぁ、恋人ごっこだってそうなんだから今回も何か理由あってのことだとは思わないわけ?何でそんなに嬉しそうなの」
「いや、だって2人の雰囲気がこう……いい感じだから?」
「なんじゃそりゃ」
「何というか、なんとなくそんな気がして」
「もっと具体的に言えこのマヌケめ」
「うーん。2人の雰囲気がする、というか、似てる?とは違うかな、いや、似てるんだけどそれは元々だしな……なんて言うんだろう。上手く言えないや」
「チッ。もういい!行くぞエルザ、話すだけ時間の無駄だ。さっさと話して終わらせるぞ」

要領を得ないながらも自分の思いを言葉にしようと頑張ってみたが、ディオが痺れを切らしてエルザの手をグイグイと引っ張って距離が開いていく。エルザがチラチラとこちらを振り返っていたが、もう話すには少し遠いので、苦笑しながら手を振って見送る。2人は手をつないだまま部屋へ入っていった。やっぱり仲良くなったのかな。誘拐事件の後からエルザはディオにも素で接するようになったし、ディオはエルザの部屋に遊びに行くことが増えた。エルザはディオみたいに嫌がらせのようなことはしないけど、本質は似ているように思う。同族嫌悪と言う言葉もあるけど、でも仲良くなりやすいんだろうな。羨ましいな。少し考えていると、若干疲れた顔をした2人が出てきた。

「あ、お疲れ様」
「おう。ん?もしかして待ってたのか?」
「ううん、少し考え事してただけだよ」
「ほ。考え事ねー。ふーん?」
「どうかした?」
「いや、珍しいこともあるなと思ってな」
「そうかな。そういえば父さんとどんなこと話してたの?」
「まあ、まとめるとディオをよろしく、お幸せにね。って感じ」
「……随分顔が疲れてるよ。大丈夫?紅茶でも飲んで休んでいく?」
「あー。……そうするわ。帰ってもすることないし」
「そっか。用意してもらってくるね!テラスで待ってて!」

2人に言い残して駆け出す。ディオも来るだろうか。3人でお茶するなんていつぶりだろう。さっきの雰囲気の話の続きも話せそうだ。使用人に頼んでお茶会の用意を頼んでテラスへ行くと、2人が何か話し込んでいた。

「頼んできたよ!」
「わざわざ悪いな」
「ありがとう。大丈夫だよ。何の話をしていたんだい?僕邪魔じゃあない?」
「邪魔じゃあないぜ、取り敢えず座れよ」

エルザに促されて座ると、2人で話していた内容を教えてくれた。婚約に関する事らしい。

「いくらなんでも急だろ?」
「うん。びっくりした」
「当事者が一番ビックリしたっつーの」
「何か理由があったの?」
「別の奴と婚約する予定だったんだけど、それがうちのお父様が嫌がって、断って、理由として出したのがもう婚約してるからーだったわけ」
「それからまだ相手に引き下がられたから相手は本当にいると言って、相手に選ばれたのが俺だった。ということだ」
「じゃあまた仮なの?」
「仮にしてもなぁ。まあメリット多いししばらくはな」
「そっかー。あ、そうそう!あれから考えたんだけど」
「ん?何を?」
「雰囲気がどうとか言っていたアレだろう」
「そうそう。言いたかったのはね、お互いを理解してる感じがしたんだ」
「ふーん。理解ねぇ」
「うん」
「ふーん?」

理解か……と呟いてエルザは考え込んでしまった。ディオも何か考えているみたいだ。2人が難しい顔をしている間に、メイド達が紅茶の用意をしてくれた。

「えっと、とりあえず紅茶も用意してもらったし、飲まない?」
「そうする。あーいい匂いだ」
「でしょ!クッキーもあるよ」
「おー。美味しい美味しい」

サクサクと甘さ控えめのクッキーを楽しんでいると、ディオが険しい顔をしているのが目に入った。

「ディオ、もう深く考えるのはやめろって、私はもう考えないようにしたぜ」
「そんなに考え込むことを言ってしまったかな?」
「エルザの思考は理解できるが、他人から指摘されるほど目に見えて理解しているというレベルではないだろう」
「私達が気づいてなかっただけじゃあない?」
「だが…」

2人が話し込んでいるので、大人しくクッキーを頬張っていると、2人の視線を感じたので、どうしたの?と言う意味で首を傾げた。するとエルザとディオ顔を見合わせ黙って首を振った。どうしたんだろう?2人は分かってるみたいだけど、僕にはよく分からない。こういうところが分かり合ってるみたいに感じるんだよなー。ゴックンと紅茶でクッキーを流し込んだ後、それだよ、と教えてあげる。

「何が」
「目だけで相手の考えてること分かってるみたい」
「そりゃ、顔見れば考えてることぐらい分かんだろ」
「僕は目だけじゃ分からないよ。2人とも隠すのが上手だから。でも2人は分かってるし、そもそもお互いお互いに対しては自分をあまり隠していないよね?だから、他の人と接する時の2人と、2人だけで話してる時の2人では全然違うんだ。そういう意味で、雰囲気が違うって言ってみたんだ」

2人は少しポカンとして、またお互い顔を見合わせた。やっぱり相性が良いんだろうな。

「2人は仲良くなれるよ。もうなってるかもしれないけど」
「そう見えるわけか」
「うん」
「そうか」

エルザは紅茶を飲んで、しばらく考えた後、別の話をし始めた。もうこの話題は嫌みたいだ。その後は少し前のように普通に会話が弾んだ。婚約したってことは、こういう時間がこれから減ってしまうんだろうな、と思うと少し寂しくなってしまうけど、幼なじみであるエルザが幸せになるならそれで良いや。2人の結婚式いつなんだろう、楽しみだなぁー。

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