エルザ | ナノ


▼ 9.5

エリナから、エルザが僕にしばらく会えなくなるらしいと聞いてから、目に見えてディオの機嫌が良くなった。鼻歌まで歌っているときもある。きっとエルザが僕に会えない理由はディオにあるのだろう。聞いたところで簡単に答えてくれるとは考えにくいけど聞かずにはいられない。

「ディオ」
「…何か用か」
「最近機嫌が良いみたいだから、何かあったのかなって思ったんだけど」
「知ってどうする」
「どうするとかじゃあなくて、エルザとしばらく会えてないから、それと関係があるのか知りたいだけだよ」

そう聞くと、ディオはニヤリと笑って自慢気に話し出した。

「エルザは僕の恋人になったんだ。僕が他の男に会うなと言ったらすぐに頷いたよ、勿論ジョジョも含むとは言ったんだがな。分かるか?ジョジョ、お前が幼いころから親しくしていたあの女は出会ってまだ日の浅い僕を選んだんだ」

ディオの話を聞いて、全て理解できた。エルザは恐らくまだディオの前では猫をかぶったまま過ごしているんだろう。恋人になったのも何かの策があってのことだと思う。今のところ心配はいらなさそうだ。そもそも僕が心配したところでエルザの手助けが出来るとは思わないけど……とりあえず一安心だ。

「そっか。エルザが決めたことなら仕方ないよ。ただ、エルザに何か、悲しませたり傷つけるようなことをしたりしたら許さないから」
「フン。お前に何ができるというんだ」

やれるものならやってみろと言い残して、ディオは去っていった。ふぅーと息を吐いてから、エルザに会えるのはいつ頃になるだろうとぼんやり考える。目的を達成するまでなんだろうけど、何のためにディオの恋人なんかに……なんかって言い方は流石にディオに悪いかな。あ、エリナなら何か知っているかもしれない……聞きに行こうかな。





「エリナ!」
「ジョジョ、どうしたの?」
「あのね、少し聞きたいことがあって」
「なぁに?」
「えーと、その…エルザがどうしてディオの恋人になったのか知らない?」
「え!?エルザがディオの恋人に?」
「あ、あれ!?知らなかったの?」

目を見開いて驚いているエリナを見て、こちらまで驚いてしまった。どうやら僕の読みははずれてしまったみたいだ。

「今初めて聞いたわ。でもエルザがジョジョと会えないって言っていたのはそれが理由なのかしら」
「そっか…エリナなら何か知ってると思ったんだけど……」
「ごめんなさい力になれなくて…」
「あ、気にしないで、ただエルザが危ない真似をしてるんじゃあないかって心配ってだけで、エリナが知らないなら仕方ないよ」

申しわけなさそうにするエリナを慰めると、エリナはふんわりと笑ってくれた。やっぱり可愛いなぁ。

「ありがとうジョジョ、エルザのことだもの、後できっと説明してくれるわ」
「うん。そうだよね。僕が心配したところでどうにもならないし」
「ふふ。エルザならきっと大丈夫。これからもジョジョを助けてくれるわ」
「ん?うん。そうだね」

いつもと少し様子が違うエリナに若干首を傾げながら頷く。
頷いたものの、寂しそうに見えるエリナが心配だ。どうしたんだろう。

「どうしたの?大丈夫?」
「あのね……ジョジョ、私ね、実は引っ越すことになったの」
「え………ど、とこに?」
「インドに」

ガツンと頭を殴られたような衝撃に、頭が真っ白になり、ただただ呆然としてしまった。僕がいつまでも黙っていると、エリナが口を開いた。

「お父さんの仕事の都合で、急に決まったことなの。私も昨日聞かされたばかりで」
「で、でもいつか帰ってくるんだよね?」
「……分からないわ」
「そんな……」
「ごめんなさい」

謝ったエリナの声は震えていた。ああ、僕は何をやっているんだろう。本当の紳士ならこんなときどうするんだろう。

「……エリナ、大丈夫だよ。僕、待ってるから。いつかエリナにまた会えるって信じているよ。だから大丈夫」

手を握り、しっかりとエリナの目を見て話すと、エリナは普段の様な表情に戻った。この意志の強そうな、エリナの気高い精神が垣間見えるような目が僕は好きだったりする。

「ありがとうジョジョ。私もあなたに会える日を信じてるわ。話せて良かった。私、エルザにも伝えなくちゃ。何だか言うのが怖くて、先にジョジョのところに来たの」
「大丈夫だよ、いってらっしゃい。エルザは泣いてしまうかもしれないね。エリナのことが大好きだったみたいだから。でも、最後は笑って見送ってくれるよ、エルザだからね」
「ええ。それじゃあ、行ってくるわ。また会いましょう。絶対に」
「うん。次に会う頃には僕は立派な紳士になってるから、楽しみにしておいてね」

胸を張ってそう言うと、エリナは「それは楽しみね」と笑ってくれた。これが最後だと思うと名残惜しくてまだずっと話していたいけれど、エルザのところへ行くのを引き留めるわけにもいかない。見送ってあげよう。

「エリナ、それじゃあ、またね」
「ええ。あなたに出会えて良かった」

エリナは手を振って、エルザの家へと歩いていった。僕はただ、見えなくなるまでその背中を眺めていた。エリナは振り返ることはなかった。





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