エルザ | ナノ


▼ 8

目を覚まして、薄暗くなった部屋を見て、昼間のことを思い出し、落ち込んだ。

『ねえエルザちゃん、落ち込んでるとこ悪いんだけどさ、一つ聞いても良いかい?』
《はーい脳内モード準備オーケーでーす。…で?何ですか?今しゃべる気力もないんですけど》
『すぐ、すぐ終わるからさ、エルザちゃんはそのまま嘆いてていいからさ』
《はぁまぁ良いですけど》
『エルザちゃんが捨身でやってるディオ君とお近づきになろう作戦なんだけどね?』
《勝手に変な作戦名つけるのやめてもらって良いですか?》
『うん。でね?』
《聞けよ》
『でね?』
《はいはい何すか?》
『ディオ君の性格からして、貴族の娘である恋人の君と、ジョナサンを孤独にするために奪ってしまいたいけどそれ以外特に価値のないエリナちゃんだと、まあ財産目当てでエルザちゃんを優先するだろうなーってのは分かるんだけどさ、ディオ君が他の取り巻き達を使ったりしてエリナちゃんになんやかんやする可能性は考えてるの?』
《あー。それは、あの他人を信用しない性格のアイツ的にやらないだろうなーと思ってたんですけど》
『でも100%じゃないよね?』
《…それを言われると、まあ、そもそもディオが私との約束を破るって可能性もあるわけですしね。…禊さんは何を言いたいんですか?》
『あのね、僕ここに来てから自分の限界を超えるのにハマっててね』
《はぁ、暇ですね。で?》
『スタンドとしての射程距離がかーなーり伸びたんだ。だからエリナちゃんを見守ることはできるよ』
《………………………それ、いつから?》
『つい最近だよ』
《もっと早く言っていただいてれば私ディオに近づく必要なかったんじゃね?》
『いやー、面白くって』
《……射程距離って、どれくらい伸びたんです?》
『軽くロンドンに旅行できるくらいかな』
《よし!行け!ピカチュウ!!君に決めた!》
『ピッピカチュー!……って、まあ、ノってみたけどさ、とりあえずエリナちゃんの守護霊になってくるね』
《急に冷めないでくださいよ。よろしくお願いします》
『あ、ちなみに、エルザちゃんから離れすぎると距離に比例して力が落ちるから、あんまり期待されても困るからね』
《はーい。そんな気はしてましたけどね。逆にどの程度の距離なら離れてても平気なんですか?》
『虚数大嘘憑き(ノンフィクション)はエルザちゃんの10m圏内でしか使えないよ。離れていても出来るのはただの螺子を刺して動きを止めるぐらいかな』
《充分です。行ってきてくださいってか今後はこういうことは早めに言っていただけると助かります》
『OKーじゃあ、行ってくるね。僕が留守の間はどうする?エルザちゃんが呼んだらすぐに帰ってきたほうがいい?それともエリナちゃんの護衛に専念したほうがいい?』
《そうですね。私は大丈夫なんでそれでお願いします》
『ほーい。じゃあねー』

窓をすり抜けて外へと出て行った禊さんを見送り、二度寝をしようとしたその時、メイドが部屋へやってきた。

「エルザ様、ディオ様がいらっしゃっていますよ。お通ししてもよろしいですか?」
「まあ!本当?嬉しいわ。もちろん、通して」
「かしこまりました」

パタン、と閉じられた扉を見て、頭が痛くなってきた。タイミングわりぃんだよ空気読め、ってかなにしに来たんだ?あああああああああああああああああああもうヤダアイツの相手すんのヤダ。もういいや体調悪いふりして寝とこ。バサッと布団をかぶり、奴に備えていると、その時が来た。

「やあ、エルザ……エルザ?どうしたんだい?」
「…」
「何か、怒らせるようなことをしてしまったかな?」
「……」

面倒くさくて何も答えないでいると、不安気で、心配そうな声で話しかけてきた。演技だとは分かっているが、どんな顔をして言っているのか気になったので、仕方なく、もう少し近づくのを待って起きることにした。

「エルザ、なあ、答えてくれないか?何かしてしまったのなら謝るから」

ディオのこの落ち込んでいる風な声を聞いているのは実に気分がいいが、もうベットのすぐそばまで来ているし、布団引き剥がされるのもいやだし、起きるか。

「わぁ!!!」
「うわっ!!?」

普通に起きるのもつまらないので脅かしてみたが、想像以上に驚いてくれたようだ。ピョンっと飛んで、ベットから距離をとったディオの顔が、ああ、演技じゃあなくマジに驚いたんだな、という顔をしていたので、私も普通に素で笑ってしまった。

「ふふ…っく…っく、ははははは!お、驚きすぎ、ふふ、うわっ、って……うわっだって」
「随分と…酷いことをするじゃあないか、エルザ。恋人を驚かせておいて笑うだなんて」

あ、笑いすぎた?声のトーンがガチだわ。謝っとくか。

「ごめんなさいディオ。いつも普通に迎え入れるだけじゃあつまらないでしょう?だから驚かせてみようと思って」
「そんなことは考えなくて良い」
「……ごめんなさい」

しょんぼりと眉を下げて謝る。なんだよコイツちょっぴり脅かしただけで本気で不機嫌になりやがって、器狭すぎるだろ、そんなんじゃあ100年後に帝王(笑)なんかになれないぞ。心の中でグチグチと怒っている間にも、重い沈黙が続いている。だが私には関係ない。禊さんがエリナを守ってくれるのならもうコイツは洋梨、もとい用無しなのだ。取り繕う必要はない。まあ、こっちにその気はなくとも向こうは違うだろうからいずれ口を開くだろう。

「エルザ、すまない。こんなことで怒ってしまって。言い過ぎたよ」
「悪いのは私よ、ディオ。悪ふざけが過ぎたわ。もうしない」
「分かったよ。これからは普通に迎え入れてくれるだけで良いんだ。エルザの顔が見られるだけで嬉しいんだから」
「ディオ!」

エンダアァァァァァァァ!!と、心の中でBGMが流れ始めたところで、喧嘩(?)が終わり、いつものリア充ごっこが始まった。コイツと別れる良い方法考えとかないとな。散々くだらない茶番をやらされたんだ、なんかこう…ディオのプライドを傷つけてやりつつ別れたい。




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