エルザ | ナノ


▼ 7

朝。起こされた、と思ったら、そのままの格好で寝たことをメイド長にしこたま怒られた。何度起こしても起きなかったので、昨夜は起こすのを諦めて放置することにしたらしい。長々と続いたお説教を、せめて靴ぐらいは脱いでから寝ろ!!(意訳)と締めくくり、

「御友人がいらっしゃっていますよ」

と、服を着替えるのを手伝ってくれた(手伝ってくれとは言っていない)。着せ替え人形よろしく着せ替えられた私は、

「では御友人をお連れしてまいりますのでエルザ様は少々お待ち下さい」

といわれたのでソファに座って大人しく待っていた。ちなみに冒頭で朝と言ったのは嘘だ。今時計を見ると思いっきり昼だった。寝すぎて頭がボーっとしている。どんだけ疲れてたんだ私。ディオに与えられた精神的ダメージ恐るべし。ってか友達って誰だ?ジョジョならジョジョって言うだろうし、他に家に来るような友達なんていたか?考えを巡らせようにもまだ半分寝ている頭は答えを導き出すことが出来なかった。というか途中で諦めて寝た。そんな私を起こしたのが、


「エルザ?大丈夫?急にお家を訪ねたりしてごめんなさい。疲れているならまた今度出直すわ」
「そーーーんな訳ないだろう!?エリナ!!この私が疲れているように見えるかい?ん?私は今日も今日とてすこぶる元気だぜ?だから帰るなーんて言わずにおしゃべりしようじゃあないか」

そう、エリナである。決してエリナの存在を忘れていたわけではないのだ。ただ、私の中のエリナは友人ではなく、天使というカテゴリーにカテゴライズされていたので出てこなかっただけなのだ。…完全なる言い訳ですごめんなさいもうしません許してください。と、いうわけで、突然の天使の降臨にすっっっっっっかり目が覚めた私は、エリナとの楽しいお話に花を咲かせることにした。

「それで、どうして急に来たの?何かあった?」

一瞬、ディオに何かされたんじゃあないか、という考えが頭を過ったが、エリナの表情を見るに、どうやらそうではないらしい。とホッと息を吐いて、先ほど運ばれてきた紅茶を口に含む。うん。美味い。

「あのね、実はエルザに渡したいものがあって」
「渡したいもの?」
「ええ、この間お出かけしたときに見つけたものなんだけれど、これを見たときにエルザの顔が浮かんで、それで、エルザにプレゼントしようって思ったの。受け取ってくれる?」
「もちろん。エリナがくれるものならたとえ病気だろうともらうよ」
「ふふ、病気ではないから安心して。これなんだけど…」

そう言ってエリナが鞄から取り出したのは、綺麗にリボンが掛けられた手のひらサイズの箱。受け取って、開けても良いのかを目で尋ね、エリナが頷いたのを確認してリボンを解き、箱を開ける。すると、中に入っていたのは…

「ブローチ?」

羽ばたく蝶を模したそれは、ステンドグラスだろうか、羽根の部分は薄い紫で作られており、胴体の部分は白いガラスでできている。しかも、触覚部分と胴体、そして羽根の端の部分には小さなクリスタルが綺麗に並べられている。あまりの綺麗さに見入っていると、エリナが声を掛けてきた。

「気に入ってくれた?」
「ああ、勿論。こんなに素敵なプレゼント、もらったことがない。嬉しいよ、ありがとうエリナ、大切にする。いや、もういっそのことエルドレット家の家宝にするよ!」
「ふふふ。家宝だなんて、大袈裟よ。でもそんなに気に入ってくれたなら私も嬉しいわ」
「ああ、ホントに天使だ…いや、女神かもしれない。お返しは何が良いかな?欲しいものとかない?」
「お返しだなんて、そんなこと考えなくても良いのに。私はただエルザにそれを受け取ってほしかっただけなんだから」
「じゃあ私もエリナにプレゼントしたくなったらプレゼントするよ。それならOKだろう?」
「ふふ、そうね。それなら断る理由はどこにもないわ」
「よっし。じゃあ何かエリナに喜んでもらえそうなものを探しておくよ。待っててね」
「楽しみにしているわ」

穏やかに微笑んだエリナはそれはもう可愛くて、ディオに与えられた精神的ダメージがみるみるうちに回復していくのが分かった。

「それにしても、わざわざプレゼントを渡しに家まで来てくれてありがとうね。遠くなかった?」
「どういたしまして。大丈夫、歩いてこられたわ。私のほうこそ突然お邪魔したのにこんなに丁重におもてなししてくれてありがとう。この紅茶もスコーンもとっても美味しい」
「お、そのスコーン実はお母様が作って下さったんだー。美味しいでしょ?私も大好き」
「まぁ、エルザのお母様が?料理がお上手なのね。…あ、もしかしてこの間のスコーンも?」
「ピンポーン!正解でーす。アレもお母様お手製のやつだよ」
「レシピって教えていただけるかしら」
「お母様の性格的に断ることはないと思うよ。聞いてみる?」
「良いの?」
「もちろん!そうと決まれば、行くか!」

頷いたエリナに笑いかけ、立ち上がる。いざ、お母様のお部屋へ!





ココココン、とノックをすると、どうぞ〜とゆったりとした返答が来たので扉を開く。

「あら、エルザ、と」
「はじめまして、エリナ・ペンドルトンと申します」
「私の自慢のお友達ですわ、お母様」
「まあまあ、そうだったの。お友達が遊びに来ているとは聞いていたけれど、こんなに可愛らしい子が来ていたのね。はじめましてエリナちゃん。私はエルザの母のオリヴィアよ。どうぞ、座って」
「お母様、実はエリナがスコーンのレシピを教えてほしいそうなんです」
「まあ、気に入ってくれたのかしら?」
「はい、とても美味しくて感動しました。それで、もしよろしければレシピを教えていただけないかと思って」
「もちろん良いわよ〜。エルザの大切なお友達のお願いだもの、待っていてね、紙に書いてエルザのお部屋に持っていくわ」
「ありがとうございます」
「良かったねエリナ」
「ええ、ありがとうエルザ!」
「ふふ、私は何もしてないわ。さ、戻りましょう」
「ええ」

失礼しましたーと部屋を後にし、自室へと戻る。

「エルザのお母様はとっても優しそうね」

ソファに座ってすぐにエリナが述べた感想に、苦笑しながら答える。

「優しそうなんじゃあなくて優しいんだ。とてつもなくね」
「それでも、素を見せたくはないの?」
「……やっぱり変かな。でも、もし幻滅されたりしたら耐えられないから」
「幻滅なんてしないわ、きっと受け入れてくれる」
「分かってる」

思わず冷たい声が出てしまったが、一度出た言葉は二度と戻りはしない。慌ててエリナを見ると、寂しそうな、悲しそうな顔をしていた。違う、そんな顔をしてほしかったんじゃあない。

「ごめんなさい、少しお節介だったわよね…」
「違うよ、エリナ、ごめん、思ったよりきつい言い方になっちゃったんだ。心配してくれてありがとう。ジョジョにも前に同じことを言われたよ。でも、これは私の問題だから、ごめんね」
「分かったわ。エルザが話してくれるまで私はこのことには口を出さない。その代り、何か相談があったら必ず言ってね。私達友達でしょう?」
「ありがとう。心強いよ」

なんとか喧嘩にはならずにすんでホッとした。そもそも喧嘩するほどに他人と関わったことがないので喧嘩の後の仲直りの方法なんて知らないのである。喧嘩になっていたらきっとエリナとは疎遠になってしまっていただろう。ヒー危ない危ない。フーと息を吐いた弾みに、エリナにしようと思っていた相談事を思い出した。

「あのさ、エリナ、早速で悪いんだけどさ、相談、というか頼み事…いや、もっと言えば伝言?かな。まあ、頼みたいことがあるんだけど良いかな?」
「ええ、もちろんよ。エルザに頼ってもらえて嬉しいわ。それで、頼みたいことってなぁに?」
「あーーーそれが………どうか理由は聞かないでほしいんだけど」
「ええ、聞かれたくないというなら聞かないわ」
「助かるよエリナ、君は本当に素敵な女性だ。で、ジョジョに伝えてほしいんだ、【今後私からジョジョのところへ会いに行くことはなくなる。そちらから来られても困るので来ないでほしい。いつまでその状況が続くのかは今のところ分からないけれど、数年には及ばないので安心してほしい】とね。」
「それは、手紙でも連絡は取れないの?」
「うん。残念ながら証拠が残るからね。ああ、大丈夫。さっき言ったことを一言一句間違えないで伝えて、なんてことは言わないから。大体で伝えてほしい。それと、エリナと遊べる回数も減ってしまうだろうけど、嫌いになったとかじゃあないから安心してね」
「そんな心配はしないから大丈夫よ。理由は聞かないと言ってしまったから、黙って引き受けるしかないわね」
「ゴメン。この借りはいつか必ず返すから」
「ええ、私が困ったときは助けに来てね」
「もちろん」
「じゃあ、ジョジョに伝えておくわ。誰にも聞かれないように気を付けるから、安心していてね」

そろそろ用事があるということなので、エリナを玄関まで見送る。

「本当に馬車は用意しなくても平気?」
「気持ちだけ受け取っておくわ。ありがとう。それじゃあまたねエルザ。伝言は任せておいてね」
「ありがとう、本当にありがとう。じゃあまたね、エリナ」

手を振って、小さくなっていくエリナの背中を見つめる。ああ、私の癒しが…これから会う回数は激減、下手するとこのままインドへ行って帰ってくるまで会えないかもしれない。原作では一気に七年後へと飛ばされたから良いものの、私は実際七年も暮さなければならないのだ。耐えられる気がしない。涙出てきた…。ダメだ止まらん。

結局その後、見送りに出ていつまでも戻って来ない私を心配したメイドに発見され、執事やらお母様やらに色々と気を使われ、恥ずかしすぎたので部屋にこもってお昼寝することにした。最近寝てばっかだな。



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