エルザ | ナノ


▼ 3

数日前、珍しくジョナサンが私の家へ遊びに来た。嬉しそうな顔をして駆け寄ってきたので取り敢えず部屋へ入れることにした。

「何かあった?随分嬉しそうな顔してるけど」
可愛い女の子でもいたか?と聞くとブンブンと顔を振り、否定する。
「違うよ、そうじゃあなくて、家族が増えるんだ!」
「ジョースター卿再婚なさるのか」
「ちーがーう!兄弟が増えるんだよ!」
「まさか、隠し子!?」
「もう!わざと言ってるだろ!?ちゃんと最後まで聞いてよ!」
「いや、悪かったって、許してよー、冗談だろ?養子でもとったわけ?」
「うん。父さんの友人の子でね、ご両親が亡くなってしまったから引き取ることになったんだって。僕らと同い年の男の子らしいよ!仲良くできるかな?」

無理ですあなたは将来ソイツに殺されます。と、正直に言うわけにもいかず、どうしたもんかと考える。

「取り敢えずさ、その子がどんな性格してるか分からないし、あんまり期待せずにいたら?そしたらガッカリせずにすむぜ」
「そんなマイナスな考え方しなくても…」
「じゃあ少しでも良い印象を持ってもらうために準備しとくとか」
「例えば?」
「自己紹介の練習とか、あと、私にダニー紹介したときみたいにどこにも繋いでいない状態で紹介するのはやめろよ、私は犬は嫌いじゃあないから良かったけど、みんながそうとは限らないからな。特にダニーは大きいし怖がる人もいるだろうから」
「分かった。やっぱりエルザに相談しに来て良かった。僕ダニーを放したまま紹介するところだったよ。そうだよね、犬が、苦手な人もいるよね。自己紹介の練習もしておくよ」
「ま、頑張れ。私はもしソイツに会うことになったら猫被る予定だから、3人で喋ることになったときは合わせてねーよろピくー」
「もし笑っちゃったらゴメンね」
「何で笑うんだよ」
「だって、エルザ猫被ると全然違うから、凄いなーって」
「笑う理由になってなくない?」
「変わりすぎて面白いって話だよ」
「ま、良いけどさー」
「でもどうして猫被るの?」
「あんまり関わりたくないから」
「父さんとも?」
「いや、ジョースター卿にはこんなんだと失礼だからさ」
「でもエルザって家でも猫被ってるよね」
「うーん。それは、まあ、ね」

十年間可愛がってもらってるけど、どうしても親とは思えないんだよなー。距離が空いちゃうって言うか、まともな親との接し方が分からないし、もし失敗したら殴られたりするんじゃあないかって思ったり、そんなハズはないって分かりきってるのにそう思ってしまう自分に自己嫌悪したり…。考え込みだした私を見かねたのかジョナサンが困ったような声で謝ってきた。

「何で謝るの?」
「いや、その、配慮が足りなかったかな、と思って。エルザにも何か考えはあるはずなのに、何も考えずに聞いちゃったなって…」
「そ。まあ気にしてないよ。言っておくけど、お父様とお母様が嫌いなわけじゃあないんだ、良い親だと思ってる」
「そっか、なら良いんだ。仲良く過ごせてるなら問題ないもんね」
「ああ。ジョジョも新しい兄弟と仲良くできると良いな」
「うん。それじゃあ僕そろそろ帰るね。今日はこれだけ話しに来たんだ。表に御者も待たせてるし」
「そう?じゃあ見送るよ」
「ありがとう」

馬車に乗って帰っていくジョジョを見送り、今後のことについて少し考える。まあディオには本性は見せないとして、ジョジョは、どうするかな…。わざわざ私が助けなくても良いよな、アイツの成長にもならないし、うん。



そして、今日。「最近行ってないから行ってきたら?アップルパイが上手に焼けたの」とお母様に言われ、アップルパイを持ってジョースター邸を訪れることになった。馬車の中で何度目か分からないため息を吐く。

「はぁ」
『ため息吐いたって状況は変わらないぜエルザちゃん』
「禊さん、でも…はぁー会いたくねぇー。猫被るのもダルいし、もうやだー」
『頑張れー』
「他人事ですね。」
『見てる分には凄く楽しいからね』
「はぁ」

もう一度ため息を吐いて頭を抱える。今から頑張ってディオの嫌いそうな<脳天気で何の苦労も知らない貴族のお嬢様>を演じなければいけない…憂鬱だ。いくら気が進まなくても馬車は通常通りに進み、ジョースター邸に到着した。

「ではエルザ様、5時頃にお迎えに上がります」
「ありがとうございます」

走り去っていく馬車を眺めてから、屋敷へと向き直り、扉をノックする。開けてくれたメイドさんに中へと通され、しばらく待っていると最悪なことにジョナサンより先にディオが来た。顔を見た瞬間出そうになったため息を我慢して口角を無理矢理引き上げて、立ち上がり、挨拶をする。

「初めまして、もしかしてあなたが養子になった…ええと、ごめんなさい、お名前を伺っても良いかしら?私はエルザって言うのだけれど」
「初めましてエルザ、僕はディオ・ブランドー。ディオで良いよ、これからよろしく」

向こうが何を考えているのかは分からないが表面上はニコニコと自己紹介を済ませ、スッと差し出された手を握る。すぐに離すかと思いきや、なかなか離さない。たっぷり三秒ほど経った後、最後にギュッと握ってから離れていった。ディオを見るとニッコリと笑っている。気持ち悪い。

「座ったらどうだい?」
「そうするわ。えっと、ジョジョは部屋にいるの?」
「いや、ダニーと遊びに行っているみたいだよ。そろそろ帰ってきても良いころだと思うけど」
「そうなの。教えてくれてありがとうディオ」
「構わないさ、ところでエルザ、それは何を持っているんだい?」
「これはね、お母様が焼いたアップルパイなの」
「貴族の女性が料理をするなんて珍しいね」
「お母様は元々街のパン屋さんだったそうだからお料理がお好きなの。色々なものを作れるお母様だけれど、パンやケーキ、パイは特に美味しいのよ」
「へぇ、じゃあそのアップルパイも…」
「きっとかなり美味しいわ。焼きたてももちろん冷めても美味しいから今日のお茶会を楽しみにしていてね」
「今少し味見したりはできないのかい?」
「ダメよ、ジョジョやジョースター卿が来てから一緒に食べましょう。きっとみんなで食べた方が美味しいわ」
「それもそうだね。あ、エルザ、頭にホコリが付いているよ」
「あら、本当?どこかしら」
「ああ、待って、じっとしていて、僕が取るよ。………ほら、取れた」

そう言ってディオが見せた手には確かにゴミが摘ままれていた。てっきり嘘かと思ったけれど本当だったらしい。

「ありがとうディオ。ずっと頭にホコリを付けたままだったのだと思うと恥ずかしいわ」
「気にすることはないよ。ところでエルザの髪は凄く綺麗だね、少し触っても良いかな?」
「え?ええ、もちろん。私の髪で良ければどうぞ」

触るんじゃあねぇよゲロ以下、と言うわけにもいかず、隣のディオへ頭を差し出す。髪を撫でる手つきは想像以上に優しく、くすぐったくなるような心地だった。時折指で梳かれながら、しばらくされるがままにしていたが、地肌を掠める指先が我慢できなくなりストップをかける。

「ディオ、くすぐったいわ」
「ああ、すまない、触り過ぎたね。エルザの髪があんまりにもサラサラで気持ちが良かったから。また今度撫でても良いかな?」
「誉めてもらえて嬉しいわ。でもあんまり触り過ぎると抜けちゃったりしないかしら」
「時々撫でるくらいなら大丈夫だよ」
「そうかしら、じゃあ少しだけね」
「分かったよ」

その後もしばらく話しているとジョースター卿がやってきた。

「やあエルザちゃん。いらっしゃい。仕事から手が離せなくてね、待たせてしまってすまない」
「お邪魔していますジョースター卿。こちらこそお忙しい中すみません」
「ディオとは大分打ち解けたようだね」
「ええ、話しやすい人で良かったと安心しています」
「そうかそうか。ジョジョもそろそろ帰ってくるだろうからテラスでお茶の準備をして待っていようか」
「はい」

テラスへ向かい、準備をしていると、まるで狙ったかのようにピッタリのタイミングでジョジョが帰ってきた。急いでダニーを小屋に戻し、顔を輝かせて走ってきた彼を加えてお茶会が始まった。




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