エルザ | ナノ


▼ 59

目を覚ますと、スピードワゴンがいた。その腕は包帯でグルグル巻きにされて、三角巾で吊られている。

「嘘だろ最悪すぎない?」
「お前、目ェ覚まして一言目がそれかよ」
「だって私の予想では白衣の天使が微笑んでくれるはずだったんだぜ」
「知らねーよ」

あーあ。ガッカリだ。外はまだ明るいみたいだが、何日か経っているんだろうか?それか、翌日?エリナはまだジョジョのところにいるんだろうか、いいなー主人公は。掌に視線をやると、包帯が丁寧に巻かれていたが、なんだか痛みは増している気がする。良いことなしだ。
私が落ち込んでいる間にスピードワゴンが流石に少し落とした声量であの後のことを話してくれた。昨日、と言ったのでそういうことだろう。ほぼ私の知っている流れだ。邸は燃え落ち、ディオは死に、ジョジョは大怪我を負った。ジョースター卿は病み上がり+精神的負担で病院についたとたんにぶっ倒れ、入院しているらしい。
ま、ディオは死んでないんだろうけど。

「ふーん。これからどうするんだろうな、ジョースター家」
「んなことより、今生きてることの方が大事だろうが!」
「あーはいはい。分かりましたよ、うるっさいな。分かったからもう帰れよ傷の治りが遅くなるぜ」
「おーおーそんだけ喋れりぁあ元気だな。じゃあ俺は帰るぜ」

席を立ったスピードワゴンは病室を出る直前、微妙そうな顔をして振り替えった。

「何だよ」
「……あー。あのよ、その、礼を言っとくぜ」
「は?」
「お前が妙に冷静に対応してなきゃあ死んでたかも知れねえ、それに、あの時お前じゃあなくジョースター卿が割り込んでいたら、ジョースターさんは父親を失っていたかも」
「かもかもうるさい。別にお礼を言われたくてやったんじゃあない。それだけ?じゃあさっさと帰れよお大事にな」
「お前ほんっとに可愛いげのねー奴だな」
「そうだな、可愛いと思って欲しかった男も死んじまったんじゃあもういらないだろそんなの」
「……」

ディオの事を匂わせてそう言うと、それはもう酷い顔をして黙り混んだ。謝らなかったことは評価してやろう。にしても、虐めるのは楽しいなあ。傷が痛むからさっさと帰れと再度伝えるとそのまま黙って出ていった。扉が閉まったあとに、フフッと笑いが溢れる。

『エルザちゃんったら悪い子ー』

ふわっと出てきた禊さんも、そう言いつつお腹を抱えて丸まるようにして無邪気そうに笑っている。ここが個室なのを良いことに、そのままお喋りに応じる。脳内で話すのはちょっとコツがいるのだ。

「あら、禊さんこんばんは。いやー良い奴に渋い顔させるのって何でこんなに愉しいんでしょうね」
『君の性格がとってもイイからじゃない?』
「あっはは。エルザちゃんイイ子になっちゃったぜ」

こんなに美人でイイ子は中々他にいやしないだろう。

『で?ディオ君に可愛いと思って欲しかったの?』
「さあ、どうだか」
『素直じゃあないなー。あ、その手どうする?なかったことにする?』
「いやいや、まだエリナに心配してもらってないからいいです。退院してから治しますよ」
『君らしいね』

この程度の怪我ならすぐに退院させられるだろう。意識がなかったから入院になったのかな。うちは大きい家だし、主治医もいる。だがどうにかその前にエリナに看て欲しい。包帯とか巻き直してほしい。来てくれるだろうか。
うとうととしていたが、ノックの音で覚醒する。気が付くと外は日が沈み初めていた。

「はい」
「失礼します」

可愛らしい声がしたので飛び起きて、期待に満ちた目で扉を見ると、予想通り入ってきたのはエリナだった。
輝いてる!白衣の天使に後光がさしてる!美少女がこんな美女に成長してまあ素敵、なんて素晴らしいのか、なるほどこれが人間讃歌か。
頭の中は騒がしいのに声にならず、そのまま目を見開いて固まっていると近づいてきて手をとってくれた。柔らかで美しく、暖かな手だ。

「手の具合はいかがですか?痛みは?」
「え、あ、ないです」
「そうですか。痺れもありませんか?」
「ない、です」
「指は動かせますか?私の手を握ってみて下さい」

そのまま簡単な問診が始まった。え、私って気づかれてない?忘れられてるなんてことないよね?え?と、戸惑いながら、やんわりとエリナの手を握ると指は動くが掌に痛みが走り、思わず顔が歪む。

「ちょっと痛いです」
「はい。わかりました、良いですよ。包帯はまだこのままで大丈夫そうですね。では最後に」
「はい?」
「私のこと、覚えていますか?」

若干心配そうにこちらを伺い見るエリナは可愛いの権化だった。いや、擬人化か?可愛いという言葉が人の形をとって私の前に現れたのか?とにかく私は忘れられていた訳じゃあないようで、安心して彼女の名を呼んだ。

「エ゛リ゛ナ゛ァァァ」
「ああ、良かったエルザ。久しぶりね。こんな機会でなければ、もっと素直に喜べたのだけれど」

思ったより汚い声が出たが、気にせずエリナに抱きつくと、優しく抱き返して頭を撫でてくれた。聖母かな?

「エリナ、エリナ。会いたかったぜ。君は相当な美人になるって分かっていたけれど、それにしたって美しすぎない?」
「私も会いたかったわ。エルザも黙っていたら本当に綺麗よ。知り合いじゃあなかったらちょっと近付き難いくらい。あと誉めすぎですよ」
「つまり喋ってる私って残念?黙ろうか?君のためなら永遠にこの口を閉ざすことも辞さないぜ」
「ふふ、変わっていないみたいで安心した。でも私はエルザとお話しするのが大好きなの。だからそのままのエルザでいてね」
「うん!」

そのままいいこいいこしてもらい、エリナは離れてベッドの横の椅子に腰掛けた。

「仕事はいいの?」
「今勤務時間が終わったところなの」
「そっか……ジョジョは?」
「まだ意識が戻らないの。ジョースター卿ももう少し療養が必要ね」
「そうなんだ」
「エルザは明日にでも帰れるとは思うけど、どうするの?」

ああ、やっぱり帰れるのか。

「帰ろうかな。医者も家にいるだろうし、お母様達も心配してるだろうし」
「そう……あのね、エルザ……何があったの?」
「んー。えっとね、簡単に言うと、ディオが悪い事して、ジョジョが問い詰めて、屋敷でバトル。そして燃えた」
「そう……その、ディオは……」
「ああ、死んだらしいね」

ケロッとした様子でそう言うと、悲しそうな瞳で見つめられる。何でそんな瞳で見るんだ。私が落ち込んでいると思って心配してくれているんだろうけど、実は生きてるだろうことを知っているとは言えないし。もっというと、死別は覚悟の上だけど、そんなことを言えば余計に心配されるに決まっている。

「おいおいエリナ、そんな顔も美しいけど、一番は笑顔だぜ」
「でも……聞いてもいい?」
「なあに?」
「どうして平気そうに振る舞えるの?愛していたんでしょう?私、ジョジョが大怪我をしたって聞いただけで動揺してしまっているの」
「そりゃあ当たり前だろ。私はただ、まあ、何と言うかなー。いずれこうなる気はしてた。って言うか、死ぬとは思ってなかったけど、やらかすとは思ってたから」
「……そう。きっとまだ整理がついていない部分もあると思うけれど、辛くなったら私、いつでも話を聞くからね」
「ありがと。エリナもあんまり思い詰めないようにね」

ニコッと笑うとエリナは納得してくれたようだった。そうか、整理がついてないとかまだ実感がないとか言えば良かったのか。それ使おう。
それから少しお互い知らなかった間の事を話して、日が沈みきる前にエリナを帰らせた。
翌日、私は退院した。お母様と弟は号泣していたし、使用人も何人か涙ぐんでいた。部屋に戻ってからメイドちゃんに、何でそんなに泣いているのかと聞いてみたら、私が怪我をしたこともそうだが、あんなに愛し合っていたのにこの若さで死別するなんてあんまりだ、と言うことだった。ディオが何をしでかしたのか伝わっているかは定かではない。なるほど、私は小説もビックリの悲劇のヒロインという訳だ。やりづらいったらありゃしない。しばらく落ち込んだ振りをしないといけないのか。
あーあ。どうしようかな、待ってると言ったのだから、アイツのことだし来るだろう。言ってなくても来そうだし。早く迎えに来てくれないだろうか。出ていく準備でもしてようかな。
その3日後ジョジョが目を覚ましたとスピードワゴンがクソデカボイスで知らせに来た。

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