目が涙で霞む。鼻の奥が痛い。額が熱を持ち思考が纏まらない。
風邪を引いてしまった。吐く息は熱く、喉には痰が絡む。この調子だと数日も経たない内に声色も変わるだろう。
Uー17合宿が一段落して気が抜けていたのかも知れない。部活と委員会の引き継ぎ、高校入試の準備、もしかすれば知らず知らずの内に疲労が溜まっていたのかも知れない。
だが今日は金曜日。今日一日をどうにかして乗り越えれば思う存分休める。そうして赤くなった頬と乱れている呼吸を若干隠すようにマスクを着け、家を出たのが約6時間前になる。

そして昼休み明けの5限目、理科。いつも通り最前列の長机に座り、教科書を包んだ風呂敷を置いたところで、少し目眩がした。
そろそろ全身に怠さが現れ始めている。椅子に座るだけで、深呼吸が必要になる。あと2時間あと2時間と自分の身体に言い聞かせ、風呂敷の結び目を解く。

「…随分辛そうだな。」

その声にあぁ遂にかという思いと話しかけられたという嬉しさが同時に浮かび、少々朦朧とした視界が彼の姿を更に輝かせていた。
腕組みをして、眉間に皺を寄せて。机を挟んで向かい合わせに彼が立っていた。
「御機嫌よう真田君。」
「大丈夫か?」
「えぇ、大丈夫でなければ学校に来ません。」
薬も飲みましたので御安心下さい。そう言って微笑むと、彼は腑に落ちない表情で隣に座る。
もしかして私が薬すら持ってきていないことを知っているのだろうか。一瞬ひやりとするものの、もしそれを知っているのであれば既に一喝されているかと思い直す。
部活を引退し、内部進学組とは学内での過ごし方も変わった。数ヵ月前には日常だったレギュラー陣との昼食もすっかり少なくなり、同じクラスでありながら彼と顔を合わせるのは一日に何度もあるものでは無くなった。
進学、の二文字が頭に残る。あぁ卒業までそれほど期間がないのか。鼻の奥が詰まっているせいかあまり自分のこととして感じられない。普段であればもう少し、アンニュイ、という気分になっているだろうにと自己分析をしながらノートを広げる。





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