[夜空に瞬く星達は]





暗い夜空にぼんやりと白い光が浮かぶ。
遠退いた星は今が冬であることを思い起こさせ、かじかんだ指先は今が寒さの底であることを思い知らされた。
真田君、と声をかけられる。語りかけるような柔らかい声色は、何処か懐かしかった。
「何をご覧になられているのですか?」
「…特に何も見ていない。」
「そうでしたか。」
夜景でも眺められていたのかと思っていました。微笑みを崩すことなく柳生は横に並ぶ。
屋上庭園へ上がる階段の踊り場。下校時間はとうの昔に過ぎている。俺も人のことは言えんがと内心で自嘲し、フェンスから離れる。
「まだ帰ってなかったのか。」
「はい、少々帰宅準備に手間取りまして。」
部の練習は1時間前には終わっている。妙な嘘を吐く奴だとは考えたが、口には出さなかった。
「早く帰れ。」
「そうですね。」
表情が読めない男の脇を通り、螺旋階段を下る。1拍遅れて、足音が追ってくる。目の端に手摺を持つ指が見えた。
時折吹きすさぶ風が帽子の庇を掴もうとする。その度に元の位置に戻していると、いつの間にか地上に降り立っていた。
空を仰ぎ見る。今まで居た踊り場はより遠くに見え、夜空に至っては暗闇の黒以外には何も見えない。深く静まり返った学校は、まるで別世界の様だった。

「…冬だな。」
「そうですね。」
校門を出てしばらく二人で歩いていたが、何も話さないのもどうかと考え、柳生に話しかける。しかし返ってきた回答は非常に素早く簡潔で、次の言葉を口にする暇もなかった。
横目で柳生を見る。やんわりと口元に浮かぶ笑みは久々に見たような気がして、何故か落ち着かない気分になる。まだこいつの存在に慣れていないのだろう。
「今年の冬は寒いな。」
「そうですね。」
「…とは言え、仁王の様に着込むのもどうかと思うが。」
「そういえば今日は上に5枚着ていると言われましたよ。」
「あの軟弱者めが。」
寒いとは言え着込むほどでは無かろう。昼間の仁王の服装を思い出すと、思わず溜息が出た。
「何故あいつはああも温度に弱いんだ? 夏場もシャツとスラックスを捲り上げていただろう。」
「彼は暑いのも寒いのも駄目らしいですからね。もしかすれば皮膚が薄いのかも知れません。」
「話には聞くがそんなことは有りうるのか?」
「さぁ、どうなのでしょうか。」
言い出しておいて、はぐらかす。良く言えば『頭の回転が早い』、悪く言えば『本音を見せない』。柳生比呂士という男は想像以上に不定だと半笑いで語っていたことを思い出す。
風が吹かないまでも、低温の空気に体を冷やされながら歩を進める。所々に浮かぶ光を辿り、道を下っていく途中で柳生が口を開いた。





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